CINEMASA

電話は夕方に鳴るのCINEMASAのレビュー・感想・評価

電話は夕方に鳴る(1959年製作の映画)
3.3
【瀬戸内海を望む架空の平和な市街が舞台。市長宅に一通の脅迫状が舞い込む。続いて「娘に50万円を持って来させろ」という脅迫電話。警察によって厳重な警戒態勢が敷かれるが犯人に勘付かれてしまう。その傍らで、推理小説マニアの女性市長秘書に、浮気性の助役、歌って踊る仮面を被った高校生秘密結社の<紅団>らといった風変りな面々がズラリと登場する。その中で、繰り返し、また謎の電話が掛かって来て、街はてんやわんやの大騒ぎに巻き込まれていく……】というスジの社会風刺コメディ。

 1959年大映作品。モノクロ&大映スコープ(シネスコ、ですね)。未ソフト化作品である。35mmプリント上映であったのが嬉しいところ。

 監督は吉村公三郎。脚本は新藤兼人。独立プロダクションの草分け的存在の一社である近代映画協会の創立メンバーである2人だが、この頃は経営不振で既に吉村公三郎は近映協を離れていた。それでも2人の絆は強く、吉村は名義だけは近映協に残していた。近映協が持ち直すのは翌1960年。『原爆の子』の世界的評価によってである。この後、しばらくして吉村公三郎は近映協でまた映画を撮り始めるのだが、本作はその狭間に製作・公開された作品である(尚、この年=1959年、近映協は新藤兼人の脚本&監督で『第五福竜丸』を撮ったが、興行的には失敗した。苦しかった時期である。また、この頃、大映が近映協の製作をサポートしていたので、本作もその関係があって撮られたものである。但し、本作は近映協作品では無い)

 出演は、脅迫される市長に千田是也、その妻に村瀬幸子、長男に川崎敬三、次男に毛利充宏、長女に大和七海路、次女に仁木多鶴子、推理小説マニアの秘書に小野道子、助役に伊藤雄之助、その妻に平井岐代子、刑事の一人に殿山泰司。その他、二代目中村鴈治郎、船越英二、上田吉二郎、中村是好、中条静夫、見明凡太朗、ジョー・オハラといった多彩な面々。曲者&芸達者揃いで楽しい、楽しい。

 舞台も、登場する人物も組織も、いずれも<架空>という事だが、明らかにロケは倉敷で行われているし、使われている方言も岡山弁である。

 冒頭、吉村公三郎作詞による主題歌『電話は夕方に鳴る』が朗々と流れ、その中を女子高生の仁木多鶴子が自転車を軽やかに漕いでいる、明朗快活な青春映画風の発端であるが、その後、突如として謎の電話が掛かって来る。といって、そこからミステリー&サスペンス色が強くなり深刻になるというわけでも無く、飄々としたタッチでめいめいのドラマが展開されていく。

 別の言い方をすれば、コレといった盛り上がりが無く、上映時間が109分であるのに、ちぃと長く感じられるのが難ではある。謎解きの愉悦やスリラーの緊迫感を期待した向きは肩透かしを喰らうだろう。が、そこはかとない楽しさに満ちた作品だ。鑑賞後の心持ちも決して重くなる事はなく、<これで街は元通りになりました>といった終幕を迎える。いや、ホント、娯楽作品としては「コレ!」といったフックが有る作品では無いのだけれどもね。その、<特に大きな山場があるわけでは無い>ところが却って味噌なんだろうな。ただ、小野道子が演じた推理小説マニアの秘書のキャラクターが面白かったので、彼女をメインに仕立てても良かったかも、と思う。

 珍品だと思う。ボチボチと満足した。
CINEMASA

CINEMASA