Tラモーン

イン・ザ・スープのTラモーンのレビュー・感想・評価

イン・ザ・スープ(1992年製作の映画)
4.0
やっとこさの1000本目のレビューは何を観ようかと思ってたんだけど、何年もクリップしたままだったコレが奇跡的にU-NEXTにやってきたってことで。


映画制作を夢見る青年アドルフォ(スティーヴ・ブシェミ)は何年も脚本を書き続けながらも、まったく日の目を見ずニューヨークのボロアパートに住み、家賃にすら困窮する日々を送っていた。生活苦により脚本を新聞広告で売りに出したところ、映画制作の資金援助をしたいと謎の男ジョー(シーモア・カッセル)から申し出がある。


やっぱりよかった!数年レベルで観たいと思っててレンタルすら見つけられないで期待値ばかりが上がっていたけど、それをヌルッと越えてくる素敵な温かみのある作品だった。

自分に自信が持てず、屁理屈をこねくり回しながら延々と燻り続ける映画オタクな青年が、わけのわからない破天荒おじさんに振り回され続けるだけのストーリーでありながら、人と人の絆とでもいうべきか、日常の中に溢れるヒューマニズムを見事に捉えている。

冒頭からアドルフォがとにかく不憫で、その雰囲気は作中ずっと抜けきらない。ブシェミの常に困ったような表情はまさにハマり役。

"もらったのは40ドル。ピザ3つ食って吐いた"

燻り続け、映画をこねくり回し、芸術性に囚われるあまり人格まで捻くれまくった彼の元に突然現れたジョー。
孤独に未来もないまま、日の目を見ない脚本と心中しそうだったアドルフォの人生に光を差したのは間違いなくジョーだ。

"俺を撃て。あと一行読んだら俺がお前を撃つ"
"クソをこねるな"

ジョーを演じたシーモア・カッセルの掴みどころの無さは「この人やたらと羽振りがいいけど、どうやって生計立ててるんだろう」おじさんそのもの。

当初は金持ちの道楽でパトロンを申し出たのかと思いきや、実のところは完全にマトモじゃなかったジョーの破天荒っぷりが徐々に明らかになっていく様子がたまらなく面白い。
そしてそれに対して「マジかよ…」顔で付き合い、振り回されるアドルフォはブシェミの巻き込まれ不遇キャラぶりが遺憾無く発揮されていて常に面白い。実際当人だったらたまらんだろうな。

実際には映画は撮らせてくれないし、犯罪行為には加担させるし、でもこんな風に短期間でも濃密な時間を共有して相手とは絆が生まれるのが人間なんだなと思うと本当に面白い。
それを呆気なく終わらせてしまうラストシーンも、毎日のようにあっていた友人とふとしたきっかけで突然疎遠になるのと似ているような気がして見事だなぁと感じてしまう。
完全に余談だけど、大学の映画研究部の2つ上の先輩との関係がそんな感じで、普段から理屈っぽくて(めちゃくちゃ読書家だった)訳わかんない議論吹っかけられたり、酔っ払ってカラオケの壁に穴開けたり、周囲から煙たがられてたんだけど、ぼくのことはめちゃくちゃ可愛がってくれててよく遊んでたんだよな。もう10年以上連絡取ってないけど。


前編モノクロだし、場面転換時にブラックアウトが多用されるんだけど、唯一ヒロインのアンジェリカ(ジェニファー・ビールス)の家にアドルフォが訪れるシーン、枕投げで羽毛が舞っているところだけ白飛びで場面転換するんだよな。
その後の雪が舞い散る中で踊るアンジェリカを撮影するアドルフォは作中でも数少ない笑顔なんだよ。めちゃくちゃ素敵なシーンだったな。

そんな風に偏屈だったアドルフォの生活に強引であれ色彩を与えたジョーはやっぱりサンタクロースだったのかな、なんて感じてしまうある種見事なクリスマスムービー。

ジャームッシュが変なちょい役で出てて笑ったけど、やっぱりこのアレクサンダー・ロックウェルの作品に流れる雰囲気と、ジャームッシュの作品に流れる雰囲気はどこか共通するものがある。人生ってこういう感じなのかもな。

これはいい映画だった。

"楽しむべきなのか、怯えるべきなのかわからない"
Tラモーン

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