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地球の静止する日のstanleyk2001のレビュー・感想・評価

地球の静止する日(1951年製作の映画)
3.4
『地球の静止する日』(The Day the Earth Stood Still)1951

「シン・ウルトラマン」公開に合わせてNHKがこの映画を放送したのは「ファースト・コンタクト」ものの古典だからかな。

人間よりも遥かに進んだ文明を持つ異星人クラートウがロボット・ゴートを連れて地球を訪れる。

ポケットに手を入れたクラートウに兵士が発砲しクラートウは負傷して軍の病院に収容される。クラートウがポケットから出そうとしたのは外宇宙の生物のデータを収めたメモリーだがメモリーは破壊されてしまった。

クラートウは合衆国大統領補佐官に全世界の首脳に伝えたいことがあると告げる。しかし補佐官は東側は参加しないだろうと回答する。案の定、東側はワシントンには行かないというし女王陛下はモスクワは無理と言う。

クラートウは合衆国に頼るのを諦めて軍の病院を抜け出し下宿屋に住む。市民の暮らしの中から誰に頼むべきかを探る。下宿に住むヘレンの息子ボビーとワシントン観光をしたクラートウはリンカーン記念館のゲティスバーグの演説を読む。「彼こそ私が会いたい人物だ」しかしリンカーンはいない。

クラートウはボビー少年からアインシュタインそっくりの科学者が世界一頭が良いと勧められて科学者の家を訪ねるが留守。黒板に書かれていた数式が行き詰まっているのを見てヒントを書き加える。IMDBによると黒板に書かれていた数式は「三体問題」なのだそうだ。21世紀の今、中国のSF作家劉慈欣によるファーストコンタクトSF「三体」が話題になってるのを考えると感慨深い。

科学者と面会したクラートウは世界を驚かせる出来事を引き起こせば世界中の科学者や首脳の興味を引き起こせると考える。

そしてクラートウは翌日の12時、世界中の電気を停める。それは発電所からの送電が止まるだけではなく自動車やバイクのバッテリーからも電気が流れなくなる。例外もある。病院や飛行中の航空機は電気が流れている。

世界が静止してしまったのだ。

この場面は「シン・ウルトラマン」のザラブ星人が電磁的記録を全て消去してしまった場面を思い起こさせる。

この映画は「進んだ文明を持つ平和的異星人」が現れた最初の映画だった。しかしこの様な異星人は後が続かず「遊星からの物体X」「ボディスナッチャー/恐怖の街」の様な人類を襲う異星人の映画が大勢をしめた。「遊星」と「ボディスナッチャー」の異星人に共通するのは人間といつの間にか入れ替わっているタイプだった。それは一見アメリカ市民に見えるが実は共産党員なのではないかという共産主義への恐怖、「赤狩り」で現れた反共主義が根底にあった。

「地球の静止する日」は反共主義と正反対のリベラリズムが根底にある。人間より進んだ異星人から見たら核兵器のボタンに手をかけながら睨み合っている冷戦構造はなんと愚かしく見えることだろうか。

SFがもたらすのは普段の思考の枠組みの外から見る広い思考がもたらす開放感だ。

そういう意味ではちゃんとSFしてるなーと思う。

後年ロバート・ワイズは劇場版「スター・トレック」(第1作)を監督する。「ウエストサイド物語」「サウンド・オブ・ミュージック」「砲艦サンパブロ」の巨匠がSFを撮るのかと意外に思ったけど実は「地球の静止する日」という歴史的作品を撮っていたから意外ではなかったんだな。
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