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無法松の一生のたにたにのレビュー・感想・評価

無法松の一生(1943年製作の映画)
4.0
【検閲】2023年29本目

検閲によってカットされた無法松の一生。
パンを繰り返すアクティブなカメラワーク。そして何度もフィルムを巻き戻して重ね合わせられた映像は走馬灯を思わせる。

演芸場の升席の中で、ニラやらニンニクやら煮炊きを始める迷惑な男。松五郎。
その上喧嘩っ早くて大暴れ。
果たして寄席が見たいのか、酒を飲みたいのか、はたまた暴れたいのか。

しかし、そんな松五郎は人として面白く、自然と人が集まってくる。
通り名があるような人物は、愛称として根付けば愛されます。


そんな松五郎。見ず知らずの子を助けたところから、その旦那に気に入られるも、間も無く妻と子を残し旦那が急死。

未亡人の妻とその息子の、まるで父親代わりとしての関係性が、作中ではカットされて明確にはされないものの、ひしひしと伝わってきます。


1943年の戦争真っ只中に撮影された今作では、"男らしさ"は美しく描かれた。
幼少期の敏雄の幼さに、"男らしくしなければなりませんよ"という母の言葉は、正直現代でも時と場合により利用して良いのだと思う。

松五郎という見本がいて、彼を見て育つ敏雄。
人力車夫の松五郎は足腰強く、運動会の徒競走ではトップをかざる。そんな彼に対して敏雄は振り絞って"頑張れ!頑張れ!"と声援を送るのである。

学生になって初めて喧嘩をする敏雄。
母の心配をよそ目に、松五郎はどこか嬉しそうだ。そして喧嘩に乱入し、再び"喧嘩ってのはこうやるんだよ!"と見本を見せる。

ちょっとしたユーモアを取り入れながら、ラストはノスタルジックに人力車が映し出される。

稲垣監督が納得できない形に終始した今作。後にリベンジを果たすわけだが、戦時中に撮影された映画として非常に感慨深い貴重な作品である。
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