★1993年に続き、2回目の鑑賞★
併映された10分程度のデジタル修復版製作のドキュメンタリーが本作の数奇な経歴を紹介してくれたので、より一層本作の理解を促し、15年後になぜ全く同じ脚本で稲垣監督が同作を取り直したのかが良くわかる。
私は30年前、ほぼ同じ時期に58年版も観ているため、正直、内容はごっちゃになっている。誰を演じてもスターのオーラが漂ってしまう三船より、泥臭い雰囲気の阪妻(今観るとすごい目力なのだが)の方が松五郎に合っていると思っていたので本作の方が評価が高い。
ただ、松五郎が死ぬシーンや松五郎が持つ未亡人への恋を感じさせるシーンが検閲によりカットされているので、流れが悪いと感じる部分もあるし、ラストは唐突過ぎる。
とはいっても、やはり本作は傑作。戦争激化の中でも映画人がより良い映画を作ろうと誠心誠意打ち込んだということがひしひしと伝わる。
世界に誇る名カメラマンの宮川一夫の多重露光による幻想的なシーンが象徴的だが、映画場面的名場面も多数あり、隅々まで神経が行き届いていて、芸術性も非常に高いところに感心する。
また、松五郎が飛び入りで叩く祇園太鼓の「暴れ打ち」は、本作から生まれたというおまけまでついている。
本作の松五郎は人に迷惑をかけることはあるけども、根は気持ちのいいひと。未亡人に心惹かれるもそれを言い出せないというキャラはもろに車寅次郎の原型ともいうべき。そのようなところからもオリジナリティーに溢れた記念碑的名作であると言えるだろう。
なお、デジタル修復の恩恵か、本作はこの時代の作品にしてはセリフが聞き取りやすいし(若干、アフレコがずれているところはある)、映像もまぁまぁキレイ。