金春ハリネズミ

皆殺しの天使の金春ハリネズミのレビュー・感想・評価

皆殺しの天使(1962年製作の映画)
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こうしちゃいられない。
時計の針は丑四つをとうに過ぎようとしている。
はやくお家に帰らなくちゃ。
みんなさっさと支度して帰りましょうか。
いやいや今宵はどうも、お邪魔しました。それでは。
そう言いながら、誰ひとり帰りません。

彼らが一体どれくらいあの屋敷に居たのかはわかりません。
ただ、とてつもなく長い時間囚われていた感はひしひしと感じます。
1時間半弱の尺感で楳図かずおの「漂流教室」を体感できますね。

構図や作中のモチーフ、テーマなんかはもはやこの際もうどうでもいいかもしれません。
とりわけバイアスの作り方に目を奪われましたよ。

受け手にある程度の余白を与える物語はとかく心地が良いですよ。
完成された作品に向かって、個々人が独自の筆を加えるから、各々のオリジナルが顔を出します。

本作はどうでしょう。
恐ろしいほどに余白だらけです。
まるで背骨を引き抜かれたはずの人が目の前で悠々と散歩するようですから、パニックです。
この劇映画がどうして成立してられるのか不思議でなりません。 

バイアスがあまりにも抽象的でふわふわしてるので、本来なら何を根拠に彼らを見守ればいいのか混乱するところを、本作ではそこを全部テキスト上の余白として、さも成立してるそぶりを装います。
この浮遊感が絶妙で、人によっては怒りにも似た印象を覚えるかもしれません。

補助線は明確に示されていますから、個人的には嫌な感じはしません。
幕引きは怖くて仕方がない。

試されています。
ブニュブニュのブニュエル君に、我々は試されています。

因みにヨーロッパにて人前で「爪を切る」行為は、人前で💩をするのと同じくらい非常識です。
絶対にやめましょう。