CANACO

ジェイコブス・ラダーのCANACOのネタバレレビュー・内容・結末

ジェイコブス・ラダー(1990年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

1990年公開。アメリカが極秘裏に行ったといわれる、薬物を用いた洗脳実験「MKウルトラ計画」と、旧約聖書に出てくる「ヤコブの梯子」をミックスさせた難解度高めの作品。ヤコブの梯子とはヤコブが見た夢の話で、地上から天国に通じる梯子を天使が昇り降りしていた様子を彼は見た。ちなみにタイトル「ジェイコブス・ラダー」のジェイコブは、ヤコブの英語読み。

主人公のジェイコブ(ヤコブ)、今カノのジェゼベル、元妻のサラ、長男ジェド、次男イーライ、事故で他界した三男ゲイブ。整体師のルイ。少なくともここまでは旧約聖書と紐付いているよう。
タイトルの意味を理解してから観るのとそうでないのとでは、解像度がかなり違うと思われる。
悪夢シーンのクオリティが高すぎるあまり、強烈なインパクトを与える。ホラー映画に区分されるが、独特の世界観とエイドリアン・ライン監督の映像表現センスが確認できるので、映像作品として見る価値がある。

ベトナム戦争帰還兵の主人公が、たびたび悪夢のような出来事に見舞われる。それが次第にエスカレートし、夢と現実の境目がわからなくなっていく。錯乱する主人公の行く末を見守る物語。

本作の難解さと気持ち悪さを凌駕するのが、当時32歳くらいのティム・ロビンスのかわいさ。そして、いたいけで切ない。パッケージ変えてほしい。

監督は『フラッシュダンス』『危険な情事』『ナインハーフ』のエイドリアン・ライン、脚本は『ゴースト ニューヨークの幻』『ディープインパクト』のブルース・ジョエル・ルービン。こんな作品も撮れるのかと、エイドリアン・ライン監督の底力を感じる。

悪夢のイメージは、ダイアン・アーバスとジョエル・ピーター・ウィトキンの写真や、ブラザーズ・クエイの短編映画からインスピレーションを得たという(英語版wikiより)。終盤の、きれいな病院がどんどん廃病院に化していくシーンは圧巻。
病院で目に入る、首を振る脚のない男のモデルはジョエル・ピーター・ウィトキンの作品。ほぼ完璧に再現していた。

身も蓋もないことを言えば夢オチの一種の本作。なので「夢、ながっ(長)」という気持ちもふと起こる。
ジェイコブが天国に続く梯子を昇ったり降りたりしている物語だとわかれば理解はスムーズ。よくわからなかったのは、どこまでが現実にあったこと、本当の関係だったのかということ。ネットで見ても考察はバラバラだったけど、こう推察してみる。

・主人公は実際に同士討ちで殺された。
・彼が用を足している間、仲間たちはみんな同じ缶詰を食べている。(推測)その缶詰に薬物が入っていたためジェイコブ以外の全員が冷静さを失った。その光景があまりに酷かったので、ジェイコブは危篤状態の中、悪夢に近い幻想を見た。
・主人公は実際にサラとの間に3人の子をもうけた。
・三男ゲイブは実際に事故で亡くなった。
・恋人ジェゼベルは幻想、病室に家族が来るのも幻想
・ルイはジェイコブが作った天使のイメージか、ルイの姿をした本物の智天使。
・終盤のゲイブは、死んだ実際の息子を天使にすり替えたジェイコブの幻想か、神の使いとして降りてきた本物のゲイブ。
・戦地シーン以外は全部現実には起こっていない。腹部を銃剣で刺されてから、野戦病院に担ぎ込まれるまでの現実のシーンでは空が映っている。

この話が巧みなのは、完全な夢オチ&宗教色強めのストーリーにしたことで、アメリカが今でも隠しているというMKウルトラ計画および幻覚剤BZの話を堂々と盛り込んでいること。

ヤコブの梯子は、“アブラハムの宗教においてヤコブが神から選ばれた民と責務を受け継ぐ”(wiki)という意味があるらしい。知性と正義感があり心優しいジェイコブが、戦場で命を落とす。その彼の肉体的な痛みをルイの姿に扮した本物の智天使が和らげ、肉体はないが天国にいる本物のゲイブが、父を天国に連れていく役割を任されたと解釈することにした。彼の魂の救済の物語と捉えれば、ただのホラー映画とは違う見方ができそう(長いけど)。

※「MKウルトラ計画」はwikiを読んだだけでも戦慄するほど怖い。グアンタナモ湾収容キャンプ関連記事を読んでも、やばいのはこの映画でなくてアメリカだなと思ってしまった。世代的に『BANANAFISH』を思い出したけど、他にも関連作品はたくさんあるんだろうな。
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