Tully

ジェイコブス・ラダーのTullyのネタバレレビュー・内容・結末

ジェイコブス・ラダー(1990年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

一人の兵士が死の間際に見た夢。それは戦場に駆り出される前に抱いていた男の欲望が具現化した世界。男は死を拒み、欲望のまま生きることを望む。そこで起こるあらゆる出来事は、自分の死を認めたくない男と自分を死へと導く死神との精神の格闘。序盤から中盤にかけてのジェイコブが見る奇妙な現象や出来事の見せ方は今まで見たどの映画よりも不気味に仕上がってる。正直「ノロイ」に近い不気味さがありかなり好きな見せ方です。地下鉄の中でただ無言でジェイコブを見つめる老女。通り過ぎる地下鉄の窓から線路際のジェイコブを見下ろす無数の顔など。特別何かが起こるわけでもなく、ただその演出のみ。それが逆に恐怖を引き立てる。ただ残念なのは、中盤から終盤にかけてその不気味さが薄れ徐々にスプラッターの様相が色濃くなること。ストレッチャーに乗せられたジェイコブが、切り落とされた手首や足が散らばる血まみれの通路を突き進み未公開映像では怪物が天井を突き破って姿を現すなど。終わりに近づくにつれ、ストレートな表現が目立つようになり徐々に自分の望まない方向へと演出が変わり始める。さらに怪物の作りも実に中途半端でいかにも人間が操ってますと言わんばかりのお粗末さ。でもラストのまさにハッピーエンドともいえる演出は良かった。ついに死神との精神の戦いは終わりを告げ、自らの死を認めたジェイコブは戦場に行く前に事故でなくした息子のゲイブに連れられて「ヤコブの階段」を昇る。それがジェイコブの自宅の階段だというのもまたニクイ演出。天に召されるには彼にとってこの上ない「ヤコブの階段」なのかもしれない。ただ、ベトナムで使用されていたらしい幻覚剤は、夢の中でまで幻覚を見せるのかと思うと、そのことのほうがこの映画の演出よりはるかに恐ろしいことのように思えました。
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