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チャイナタウンのEyesworthのレビュー・感想・評価

チャイナタウン(1974年製作の映画)
4.6
【砂漠の街、怠け者の街】

ロマン・ポランスキー監督、ジャック・ニコルソン主演のハードボイルドミステリー。

〈あらすじ〉
1937年のロサンゼルス。私立探偵ジェイク(ジャック・ニコルソン)はモーレイ夫人からダム建設技師である夫の浮気調査を依頼される。だが、盗み取りした写真がなぜか新聞に掲載され、それを見たもうひとりのモーレイ夫人がジェイクを名誉毀損で告訴しに現れる。実は彼女こそ本物で、名をイヴリン(フェイ・ダナウェイ)という。ジェイクはこれがダム建設をめぐる疑惑と関係ありと睨んで調査を開始するが、モーレイは溺死体で発見され、ジェイクもまた謎の男たちに暴行を受ける。ジェイクは依頼人であるイヴリンとただならぬ関係を持つが、彼女の父ノア・クロス(ジョン・ヒューストン)との接触によって事件の真相に近づく…。

〈所感〉
ポランスキー監督の淫行事件により、結果的に最後のアメリカ作品となったノワール作品。主演のジャック・ニコルソンは翌年に『カッコーの巣の上で』で主演男優賞も獲得した油の乗ったスターだ。そんな彼を起用した本作は、『シャイニング』『カッコーの巣の上で』等のネジが外れた狂人ぶりに比べて、より素顔に近いジャック・ニコルソンが見れた気がした。直情的だが頭が切れる良いキャラクターだった。タイトルの『チャイナタウン』の街は最後のシーンまで登場することは無いが、主人公のジェイクにとってその街はかつて検事局時代に管轄していた街だった。そこは、圧倒的な華僑のパワーの前に、警察権力すら無効化されてしまう嫌な思い出しかない「怠け者の街」である。しかし、なんという巡り合わせかまたこの場所で悲劇に見舞われてしまうのが示唆的だ。タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でも描かれている、ポランスキー監督のハリウッド宅での妊娠中の妻シャロン・テート殺害事件と重ね合わせてしまう。チャイナタウン=ハリウッドと見立ててこの作品で呪われた地に決着をつける形にしたかったのかもしれない。とにかく、この世の不条理さをストレートに表したバッドエンドに息を呑んだが、この映画は最後に黒幕が判明して、事件が一旦落着してもまだまだ問題は山積しており、本来なら探偵ジェイクにとってもこれからが事件の全容解決に向かう局面だ。しかし、それらが描かれないが故に見ている我々を最後まで暗鬱な世界に引き寄せ続ける、そんな重力の強い傑作だった。
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