喜連川風連

小早川家の秋の喜連川風連のレビュー・感想・評価

小早川家の秋(1961年製作の映画)
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小津安二郎が撮る「関西」と老境の恋。

ひょいっと、撮っているようでありとあらゆるカットが計算し尽くされている。

火葬され、燃える炎を見る5人のショットは綺麗に扉の中に収まる。高さの整った器や額縁。

上手いのを上手いと見せない職人芸。

かの有名なイマジナリーラインを破るカメラワークが生む効果について考えていたが、無理矢理にでも観客を物語に誘引する力が強い。

カメラに人物が正体することで、観客は文字通り、逃げ場がない。そこに独特のリズムで刻まれるカットバックと練りに練られた構図が加われば、とても小気味いい映画体験になる。

京都人の外向けの顔と内向けの顔の使い分けも面白い。

外向けには、いい顔をする元芸者の女も、内向きには、お父ちゃんを好いているのかわからない。「(涙もなく)ほんに、あっけなく死んでしもたわ」

中村鴈治郎は妾の家で生を全うするも、涙を流すのは実家の家族。

念仏のように響く祭囃子。蚊取り線香と線香の煙が見分けのつかない形で撮られているので、死んだのか死んでないのか、パッと見で見分けがつかない。

白い布がかぶさった顔が一瞬映るところでようやく死を認識する。

観客もあっけない死を再体験する。映画自体もかなりあっけなく終わる。

農夫は「死んでも死んでもまたようけ生まれてくるわ」と発言し、カメラは墓石とカラスを写す。

酒屋の番頭と店員の少しズレた会話が小気味いい。番頭の言ったことを微妙に店員が覚えていない。

晩年の小津作品、洗練されてて絶品ですね。
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