シズヲ

裸の拍車のシズヲのレビュー・感想・評価

裸の拍車(1953年製作の映画)
3.8
金を巡る思惑が常にちらつき、油断ならぬ緊張感が常に迫り来る。ならず者の賞金首とその連れの女、彼らを護送する“訳アリの主人公×金脈を探す爺さん×騎兵隊くずれ”のアンサンブル。『ウィンチェスター銃'73』『怒りの河』と共に作られたジェームズ・スチュワート&アンソニー・マンの西部劇。アンソニー・マン監督作、小粒ながらも楽しい娯楽作が多いのでなかなかどうして侮れない。

本作の肝となるのは旅路の中で描かれるサスペンス性である。明確な登場人物は5人のみ、極限まで絞られた構図で緊張感が漂い続ける。不敵な賞金首は勿論のこと、胡散臭さ全開の騎兵隊くずれや裏で取引に乗ってしまう爺さんなど、欲や思惑が水面下で絡み合っていく。中盤までは主人公さえも不気味で信用ならないので殊更にスリリング。ロバート・ライアンの憎たらしい演技がやはり印象深く、ジェームズ・スチュワートの屈折した人物像も味わい深い。曲者ばかりの登場人物達の配置やフラグに基づく“構図の二転三転”そのものが話を引っ張ってて面白い。

要所要所でのロケーションも印象的で、冒頭からいきなり断崖を挟んだ“銃撃VS落石”の攻防が繰り広げられるのが脱帽。構図を反復するような終盤の対決もそうだけど、こういう高低差を生かしたシチュエーションにマン監督の持ち味を感じる。そして銃撃戦が終わったラスト付近でさえ“死体”と“激流”を挟むことで更なるアクションへと昇華させるのが凄い。あのへんの退場はちょっと予定調和感もあるが、欲に手を伸ばした末路としてのテーマ性は感じられる。中盤の(大分インディアンがとばっちりな)激しい銃撃戦もまた緊張感に溢れている。

後に『サイコ』で殺されるジャネット・リーは男達の思惑に巻き込まれつつ、ただ一人だけ打算を越えて主人公と心を通わせる。サスペンスの中での清涼剤めいた存在である。娯楽西部劇における典型的なロマンス要素とはいえ、雨期の洞窟における食器のシーンなどで印象を残してくれる。男達に色々と振り回されて可哀想でもあるんだけどね。それまでのサスペンス的な展開を乗り越えて、主人公が浄化される結末は一種のカタルシスに溢れている。
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