Hiroki

過去のない男のHirokiのレビュー・感想・評価

過去のない男(2002年製作の映画)
4.2
ついに今年もカンヌが華やかに開幕!
訴訟騒ぎのマイウェン&ジョニデのオープニングにはいろいろな声があったようですが...
という事でまずは以前のレビューでも書きましたが今年のラインナップを軽くおさらい。

“コンペ”には2年連続で是枝裕和。さらに日本で撮影したヴィム・ヴェンダース。
パルムドール受賞者ではケン・ローチ、ナンニ・モレッティ、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン。
その他にも常連のウェス・アンダーソン、マルコ・ベロッキオ、トッド・ヘインズなどなど豪華な顔ぶれ。
コンペ以外ではオープニングが上記マイウェンによるジョニー・デップ復帰作で、クロージングがピーター・ソーンによるピクサー作品。
“アウト・オブ・コンペ”にインディ・ジョーンズの最新作、マーティン・スコセッシ(スコセッシはコンペの招待を断ってアウト・オブ・コンペに)、キム・ジウン。
“スペシャル・スクリーニング”にスティーヴ・マックィーン、ヴィム・ヴェンダースとワン・ビンがコンペとダブルで。
“プレミア”に北野武の新作と、なんとなんとビクトル・エリセの新作!

という事で今年もコンペ監督の過去作をなるべく見て予習したいと思います。
1人目は、今年の超豪華ラインナップの中でもやはり気になる引退を撤回して久しぶりにカンヌに参加するアキ・カウリスマキ。
今作は2002カンヌのグランプリと女優賞のW受賞作品。

まーアキ・カウリスマキ以上に画を見ただけで彼の作品だとわかる映画監督もいないと思う。
画角、色彩、美術、役者の顔...全てがアキ・カウリスマキでしかない。
今作もオープニングに男が電車に乗ってくる所でもーわかりますね。
お話として、見知らぬ土地に来た1人の男・M(マルック・ペルトラ)が強盗に襲われて記憶を失いながらその土地で色々な人々と出会い生活していく内に真実の愛をみつけるという、まーよくある話。
ただこれを物語にしてしまうのが彼の凄さ。

そしてこれは結局グローバリズムへの抵抗の話なんだと思った。
2000年代前半のフィンランドは不況から脱出して経済回復に成功する。その原動力が企業のグローバリゼーション。
経済回復の引き換えにどんどん均質化され、固有の文化や習慣は消えていってしまう。
思えば主人公Mは違う土地から仕事を探しにヘルシンキの街に現れ、暴漢に襲われる。
彼を助けてくれる隣人・ニーミネン(ユハニ・ニユミラ)や警備員・アンティラ(サカリ・クオスマネン)、元妻の恋人(ヤンネ・フーティアイネン)も条件付きでならサポートしてくれる。
ここらへんは非常に示唆的に描かれている。
そしてその事に抗うかのように主人公Mは救世軍(プロテスタントの一派)の力を借りて身なりを整え、仕事をして、恋人・イルマ(カティ・オウティネン)を見つけ、伝統的な聖歌隊のバンドにロックを教え込む。
ここでアキ・カウリスマキが描こうとしたものこそ過去をなくした男=文化や伝統を失いそうな小さなコミュニティの再生。
まーしかしその中にパッとしない中年同士の恋物語をそっと差し込むのも彼らしい。
この要素こそが希望を描き続ける彼の真骨頂!
素晴らしい。

元々アキ・カウリスマキの大ファンでCDが出来るたびに送り続けていたという小野瀬雅生(クレイジー・ケン・バンド)の曲が使われていたり、寿司・日本酒と相変わらずの日本大好き要素も必見!

今回のコンペ作『Fallen Leaves』は港町(移民)3部作の3作目で“愛を求める2人の人間に関する優しい悲喜劇”との事。
いやアキ・カウリスマキの作品はほぼそれだろとか思いながらも、超絶に楽しみです!

2023-31
Hiroki

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