kito

過去のない男のkitoのレビュー・感想・評価

過去のない男(2002年製作の映画)
4.4
連夜アキ・カウリスマキ・ワールドを大いに楽しんだ。

昨夜観た「浮き雲」が失業、求職という割と身近な話だったのに比べ、本作は初期作品群っぽい何が起こるのか予想しにくい雰囲気が感じられた。さすがに月日が経って少し丸く穏やかにはなっていたけれど。本作にはクスッと笑えるシーンが多かった。

記憶喪失ものって、古今東西、数えきれないほどある。本作も斬新な展開こそないのだけれど、そもそも記憶喪失がチート級の謎なので、冒頭から一気に引き込まれ目が離せなくなった。

開始早々、主人公がいきなり激しい暴行を受け、病院でも手の施しようがなくなり死亡⁈ーーからのゾンビを凌ぐ元気いっぱいな蘇生。にもかかわらず、何事もなかったように淡々と病院を後にする主人公の "ハードボイルドさ" ったらありゃしない。

福祉大国と言われるにしては、毎回、警察や職安といった公務員に対する信頼が低い。まあ、そう見えるよう、職員たちの態度が悪く描かれてはいるけれど。それにしても最初の段階では主人公はホームレスではないので不思議だなぁと思う。政治、行政に対して拭えないわだかまりのようなものがあるのだろうか。

ハリウッドものでもそうだけど、あの長い社会保障番号の類を記憶するって毎回凄いと思う。MNPした後なかなか新しい電話番号すら覚えられなかった私には、マイナンバーなんて絶対に記憶できない自信がある。

記憶喪失ものは多かれ少なかれ記憶を取り戻すものだけど、この監督は型には嵌まらなかった。必要以上に過去にはこだわらず、現状肯定で先に進む姿勢が何ともポジティブで、どの作品の主人公にもそんな感じがする。

敗者三部作と呼ばれているけれど、「浮き雲」ともども、決して暗い終わり方をしないのが良いなあと思う。

ーーー

コレはもうさっそく円盤を買っとかなくちゃレベルーーって、未開封のまま何やかんやで10年以上熟成させてるDVDがもうあった、、、
kito

kito