垂直落下式サミング

荒野の追跡の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

荒野の追跡(1954年製作の映画)
5.0
牛泥棒によって家族が殺害されたことを知った鉄道技師のオーディ・マーィが、故郷に戻り保安官代理に名乗り出て独自の捜査で犯人への復讐を誓う。最近みたなかでは一番!けっこう掘り出し物な西部劇。
前半で主人公の動機付けを明確にしておいてから、中盤は犯罪者の逮捕から釈放まで、後半では黒幕との激しい戦いがはじまる。アクション活劇の三幕構成として、お手本のような綺麗さ。
『情無用の拳銃』とやってることは一緒だけれど、こちらでは肉親が殺される場面をハッキリと見せるし、実は黒幕が裏で暗躍している一筋縄にいかないストーリーなど、ただ無頼漢をしょっ引いて解決とはならない。人物の相関関係をシンプルに切り詰めた80分。
オーディ・マーフィは、相変わらず可もなく不可もない好青年ヒーローをやっているが、この物語では真面目で優等生すぎるくらいが調度よかった。他人のことを信じすぎて、何度もはめられそうになるお人好しっぷりにハラハラ!
真犯人の悪徳保安官たちは、目の上のたんこぶの彼を排除しようと、罠を仕掛けて任務中の暗殺を企むのだけど、運もいいし強いしでぜんぜん上手くいかないから、クライマックスで実力行使に出てくるのも自然な流れだし、何回かあるガンファイトシーンの見せ方は、それぞれ工夫があっていい。
そして、『ウィンチェスター銃'73』にも出ていたダン・デュリエが魅力的な無頼漢を好演。相手を小馬鹿にしたような態度でケラケラ不適に笑ったりするのがウザさMAX。下手をすると量産型オシャベリヴィランになってしまうところを、古きよき時代の西部劇らしく抑えるところは一歩引いてキャラクターに血を通わせていた。この系統の悪役は大嫌いなんだけど、この人はなんか品がある。
オーディ・マーフィのお人好しっぷりに感心して、彼を気に入り不思議な友情に発展していくのも素敵だった。主人公のことを気にかけるのは、美しい魂が汚れてほしくないから。自己の信念にしたがう男が、友達を守るために突っ伏して死んでいくピカレスクロマン。
ニューシネマがあらわれるのは何年も後だけど、自由が権威に敗北するさまには、しっかりと滅びの美学を感じる。
序盤、主人公に向かって「バッヂは人殺しの許可証じゃないぞ」とか釘を刺すように尤もらしいことを言うくせに、実はコイツこそが仇だった悪徳保安官っていう寄る辺なさもカウンターカルチャーっぽい。ドント・トラスト・オーバー・サーティって感じ!
そんで真っ白い馬。毛並みがきれいだった。繊細な純白の毛並みが、渇いた土煙のなかを全力疾走。しっかりと力強さを感じる。
西部劇のヒーローには珍しく、主人公がお酒飲まない人だから好きでした。シラフのほうが強いんだと、当たり前がちゃんと描かれていて素晴らしいと思う。世界を確実に認識できているほうが強いに決まってんだから。酔っぱらいガンマンなんか雑魚に決まってる。お酒飲まない人がいい。
ラストで、結婚したカップルをのせた列車がトンネルに入っていくのは、何を意味するのか。ただ暗転する演出。『北北西に進路を取れ』の締めよりエレガント。