うめ

海を飛ぶ夢のうめのレビュー・感想・評価

海を飛ぶ夢(2004年製作の映画)
3.5
 アカデミー賞関連作、鑑賞その4。第77回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞したスペイン製作の作品。26年間全身不随、寝たきりの状態で生活をしてきた男性ラモンが、自らの尊厳死を訴えて闘う姿を描いた作品。

 今作は実在の人物ラモン・サンペドロの手記を基にしており、尊厳死というテーマながらも伝記的な描き方を終始貫いている。病気の描写となると、どうしても生死を甘美に描きがちだが、今作はそうした描写がない。徹底して現実的だ。同時に伝記的でもあるため、「ラモン」という一人の人物の物語をしっかりと感じ取ることができる。もちろん人間にとって「生(命)」とは何かという根源的なテーマにも、ラモンの兄、ラモンと似た境遇にある弁護士フリア、神父などそれぞれの観点から迫っている。

 ハビエル・バルデムの演技が良い。全身不随で頭しか動かせないのだが、あの大きな瞳と頭の動きでラモンの固い意志をよく表現していたと思う。同時に、回想で不随になる前のラモンが登場するのだが、このハビエル・バルデムが素敵だった。結構色気のある俳優なのだなぁと。『ノーカントリー』のおかっぱ殺人鬼の印象が強いせいか(笑)、そういう雰囲気の彼を観て驚いた。

 自分の命も含め人間の命をどう扱うか、どう捉えるのかというのはとても難しい問題だ。現代でもまだ医療技術が発達していて、倫理的な点はなおざりにされがち。自分もそうしているかもしれない。いつ、どんな形でこの問題に直面するかわからないのに、それを放っておいているのはなんと恥ずかしいことか。ちょっとずつでもいいから、考えていかないといけない問題だなぁと、ラモンの姿を観て思った。

 もちろんこの作品を観て答えが出る訳ではないが、生死という誰もが抱える問題にいかにして向き合うかを考えるきっかけとしては、いい作品だと思う。
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