シズヲ

ワン、ツー、スリー/ラブハント作戦のシズヲのレビュー・感想・評価

4.0
ヨーロッパでの出世を狙うコカ・コーラ西ベルリン支社長、マクナマラ。あるとき彼は本社重役から令嬢の世話を暫くの間任されることになるが、彼女は奔放な遊び人で……あろうことか東ベルリンの共産主義者と結婚!?もうすぐ重役夫妻が令嬢を迎えに来る!これがバレたら間違いなく首が飛ぶぞ!冷戦下のドイツを舞台に、資本主義と共産主義の双方を皮肉ったスラップスティック・コメディ。作中で幾度となく流れる「剣の舞」が本作のドタバタぶりを象徴していて楽しい。

とにかくハイテンポが肝の映画で、ギャングスターの名優ジェームズ・キャグニーが終始捲し立てる。ひたすら早口、とにかく早口。次々に電話を取っては会話を繰り返す場面は実に小気味良くて、もはや演技そのものがアクションと化している。キャグニーを始めとする役者陣の饒舌な演技と次々に飛び出す軽快なジョーク、ビリー・ワイルダーの演出が映画の疾走感を生んでいて楽しい。冷戦を下地にしているので現在ではちょっと分かりづらい部分もあるけど、ガッツリ皮肉を効かせてる内容の勢いだけでも何だかんだ楽しい。後半のドタバタぶり実に忙しなくてスピーディー。

諸々のイデオロギーを容赦なくコメディーに変えてしまう描写も強烈。明らかにナチス時代の習慣が抜けていない側近や共産主義スレスレの統率ぶりを見せるコカ・コーラ社員一同、やけに空気を読まないアンクル・サム時計など、要所要所で挟まれる描写がいちいち味わい深い。脳天気な恋人やコカ・コーラ支社長に散々振り回された末に「労働者を蜂起させられる!」で軟着陸した共産主義青年はなんか結果オーライで笑った(ラストのヤケクソ演技で更に笑う)。「誰もが平等で自由かつ正義ある社会を!」「ジェファーソンとリンカーンの言葉だ!」など、対峙する思想を遠慮なく混濁させる掛け合いの切れ味も清々しい。ベルリンの壁崩壊後のドイツで本作が再上映されて大ヒットしたという逸話も興味深い。

イデオロギーを笑い飛ばすブラックな内容の作品でありながら、コカ・コーラが実名で登場しているのがやたら印象的。ライバル企業であるペプシ・コーラも対抗して本作に捩じ込んできたらしいのが笑う。何だかんだ良い感じに着地してからのペプシオチほんとすき。「シュレマーーーッ!!」
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