Jeffrey

あるじのJeffreyのレビュー・感想・評価

あるじ(1925年製作の映画)
4.8
‪「あるじ」‬

‪冒頭、ベッドに眠る夫。家事をこなす妻。娘が扉奥から登場。続いて息子が母に身支度される。機嫌悪い父、慌しい朝、朝食、九九を母に聞かせる子供、母の家出、乳母との対立、今、父は自らの身勝手さを思い知るのだった…

本作はC.T.ドライヤーが普遍性をテーマにありきたりながらに優しさを存分に感じさせた1925年デンマークのサイレント映画で大傑作で後に撮影した数々の難解作、例えば裁かるるジャンヌや吸血鬼、奇跡の様な難解さは微塵もない。

これは小学生でもきちんと理解出来る作品で後6年経てば100年も前の第7の芸術になる。

物語は最愛の人であった妻をこき使い、まるで家政婦の如く使い倒す夫を見兼ねて乳母の策略により妻が家出する。

それを最初は苛々しつつ気にもしなかったが段々、妻が恋しくなり妻の居場所を教えろと威丈高に娘や乳母に言うも一向に教えない2人…

軈て改心した夫と妻は再会するのだったと単純明快、シンプル過ぎる程な題材だが、

とても素晴らしい1本だ。主に室内による撮影とクローズアップが目立つ作風で、

強烈な印象を残した乳母のニールセンと改心して行く1人の男を演じたメイヤーの芝居は素晴らしく、本当にいつ観ても感動する。

いや〜強烈な父親像を描いたドライヤーの傑作よ。良いタイトルを付けたもんだ。主人…全てを支配する父、それに屈服する家族、息子を部屋の隅に両手を後ろで構えさせ立たせたり、嫁に出来損ないのお粥なんか作りおって、ヤカンの音が聞こえてるの俺だけかと叱ったり…

そこへこんな仕打ちする父に激怒する乳母が逆に嫌がらせを開始し、引っ叩いたりし激昂して手をあげる寸前で嫁が止めに入り突き飛ばされたりと酷いひどい…

こんな生活がこの時代から映像化してるのも凄い興味深い。
それでも夫に尽くす彼女の健気さに胸が痛くなる。
母親が息子に本を読む際に君主と言う言葉が出てきて息子に君主って何と聞かれて号泣してしまう母親の姿は印象的。

また面白い事にずっと夫に罵声を浴びされている部屋で息子がずっと立たされる背後の画は滑稽だ。時折見せる無邪気な息子の顔や行動が良い。それとカット割が半端なく多い…まるで実験をしているかの様に感じる。

父が籠の鳥を投げ付け様とするシーンで乳母が必死で止め、娘が父さんやめて!と叫ぶ場面の緊張感は音楽もあってか凄かった。そこで娘が遂に出て行った母の居場所を教えて、母の苦しみを初めて理解する父の表情や迎えに行くも診断書を見せられ、渋々帰宅してから素直になる彼の姿には感動する。

ネジ巻き玩具で娘が母の事を手紙に書いて父に渡したり、心温まる演出がある。もーね、夫婦の感動的な再会には涙が出てくる。

終盤、乳母が夫に嫁の居場所を知りたかったら私の言う通りにしなさいと言いながら壁に向かって立ちなさい腕は後ろに組みなさいと言うシーンは父が息子に叱った時に行った行為をそのまま自分にさせ、背後から帰宅していた嫁にジョンと名前を言う下で後姿の夫の首裏に嫁の腕が巻きつくシーンは素敵で、ラストの柱時計の意味がまた良い…

そう言えば"あるじ”の原作者は自分で本作を映画化したらしいが、そちらはまだ未見なんだよな…。

にしてもドライヤーは基本的に難解な監督とレッテル張貼りされるが、本作の様な平凡な妻を主人公にし、軽い喜劇に描いた本作を観ると彼の作品に思えない…全く色んな一面を見せる監督だ。‬ ‪本作は如何に男は傲慢な生き物かを身返す試練の映画だ。‬
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