河

タブウの河のレビュー・感想・評価

タブウ(1931年製作の映画)
4.2
まだ近代化されていない、贈与がルールになっている島と、おそらく植民地化されていて白人や華僑の住む貨幣経済の島がある。贈与の対象になった女性と駆け落ちすることで島でのタブーを犯す。経済的に嵌められて駆け落ち先にも住めなくなる。結果、どちらにも住めなくなり、主人公はその間にある海に沈んでいき、女性はそのどちらでもない場所に奴隷のように送られていく。その女性がここまで強制的に連れ戻される、タブーになること、駆け落ち先の島で主人公が破滅すること、その両方の背景にはそれらの島の背後にいる国家による制度がある。
『サンライズ』『都会の女』に引き続き、二つの舞台を行き来する話。このどちらでも現実離れした夢のような展開によって居場所が見つかるのに対して、この映画では現実的な展開になっていて、どこからも排除されて行き場をなくして終わる。この二つの舞台っていう設定にここまで固執し出したのがアメリカに移ってからっていうのもあり、ドイツの映画業界からハリウッドに移った監督自身の話っていうレイヤーがあるように思う。
フラハティは自然を近代社会の比喩として、自然が人を飲み込んでいく予感をずっと撮っている監督のように思っていて、だとしたら、ムルナウは陰謀に人々が支配されていく予感を撮ってきた監督なんだろうと思う。フラハティの映画では自然に適合できなかったら死ぬ以外なくなるし、ムルナウの映画では陰謀にはめられたら破滅するしかなくなる。どちらも近代社会に対する深層心理的な恐怖や悪い予感、それに打ち勝とうとすることみたいなところで共通するんだろうと思う。
ムルナウの初期作にあった自然を映したショットに何かが宿ってるような感覚がフラハティと共通するように思ったので、そこを期待していたけど、そもそも共同脚本なだけで監督はムルナウだけらしい。
中盤までは『最後の人』から続くムルナウのリズム感を生み出す気持ち良い編集が続いて、終盤で一気に野外撮影の表現主義って感じの見たことないショットに切り替わっていく。影が落ちるようになり、全体的に画面がくすみ始めて、象徴的なショットが増える。
チャプター名にもなっている楽園を終わらせる、ルールを破った人は排除するっていうその怖いくらいの問答無用さ、運命のようなものを体現しているようなおじいさんやその船の映され方、縄を切るショットが本当に良い。
ただでも中盤まではこれまでのこの監督の作品に比べると落ちるように思うし、フラハティの『モアナ』とロケーションがそっくりなのもあってその映像的な強さとも比べて見てしまいった。
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