ルサチマ

タブウのルサチマのレビュー・感想・評価

タブウ(1931年製作の映画)
5.0
人工物と自然物の対比をこれ以上の形で描いた映画は(ストローブ=ユイレがそれを引き継ぐ形で迫ったものの)未だ存在しないと言い切っていいと思う。ムルナウはこれまでにも俳優に物理的な重みを付与して動きの制限を与えながら深い陰影とのコントラストによって被写体を捉えようとしたように、今作でもアルトーが身体を発見したといわれるバリ島を舞台に、極めて倫理的にスレスレの、共同制作者のフラハティとは決別するほどの西洋的視点に基づく人工的演出を当地の素人俳優に課しているが、本来「身体性」なるものがあるとするなら、人間個々人にミクロに迫って偶然現れる身体反応の瞬間を発見するなんていう、現代の映画/演劇関係者の胡散臭い穿った解釈なんてものでは全くなく、人間の周縁に息を潜めて束縛する制度そのものを撃つ「叫び」であるはずで、ムルナウは一切の気の利いた都合の良い解釈を拒み、西洋の眼差しの下で今一度アルトーが発見した「叫び」を自らのやり方でーーそれが極めてリスクを負ったものであるとしてもーー発見することを実践したものなのは疑いなく(ちなみにアルトーがバリ島でダンスを目撃したのもほとんどムルナウと同時期?の可能性があるのでそれぞれが別のやり方でアプローチを試みたと言うべきか)、タブウが描き出す表現の可能性は、表象の臨界点さえをも暴き出したものだろうし、今なお巨大にして深淵なる問題として黒々と存在してる。
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