井出

長江哀歌(ちょうこうエレジー)の井出のネタバレレビュー・内容・結末

4.7

このレビューはネタバレを含みます

美しい。中国の風景も、長江も、哀しみを抱えながら慎ましく生きる人々も。そして、それを優しく見つめる目も。ジャジャンクー、素晴らしい。
出てくる中国人は日々を一日、一日と生きている。生活に苦しみつつも、憧れの外貨が入ってくることに抵抗しつつも、受け入れざるを得ない工業化に苦しみつつも、何千年もの歴史をもつ街やそこでの営みが一瞬にして沈んでいくのを虚しく思いつつも、彼らはやっぱり生きている。やり場のない苦しみを、静かに受け入れながら、時には爆発させ、時にはたばこでごまかし、酒でごまかし、飴の一瞬の甘さに酔いしれ、歌に癒され、踊りに身を任せ、生きている。生命の美がそこにある。
彼らの心を映すのは水である。沈んだ心のような雲、土壌や心身を潤す雨、いろいろな苦しみや哀しみを流してくれる長江、肌を光らせる汗、堪えきれず溢れる涙。そこに映るのは、彼らの苦しみ。しかしその水は、流れていく。せめてもの救い。潤いや瑞々しさとは違うが、流れていることがどんなに美しいことかが分かる。街を飲み込み、人々の生活を分断した長江はそれでも、流れ、舟を運ぶ。それでも生きていく中国人のように。
音の使い方は素朴ながら、技術が光る。携帯の音が徐々に近づいてくる感じ、音楽がそのままBGMになる感じ。自然すぎて、全く邪魔にならない。洗練されている。
廃墟での構図も素晴らしい。役者も、カメラワークも、脚本も洗練されている。セリフや表情の少なさ、なのにこの分かりやすさ。天才。
建物がロケットのように飛んでいく遊び心。廃墟からの構図もだけど、ファイトクラブ的とも言える。皮肉、ユーモア。タンクトップで働く人の横で、重装備で除染してんだもんな笑
素晴らしい。
井出

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