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続・飢える魂のsowhatのレビュー・感想・評価

続・飢える魂(1956年製作の映画)
3.0
【「お母さん」であり「妻」である前に女は女であるという当たり前のこと】


丹羽文雄原作の人気ラジオドラマを映画化した本作は、二人の女性の生き様と心の揺れを丁寧に描きます。

小河内まゆみ(轟夕起子、当時実年齢40歳)。

夫と死別した後、大学生の息子、高校生の娘を一人で育てる実業家で、新たに買い取った旅館の開業準備に余念がない、という設定の女性ですが、実業家らしい描写はほとんどなく、いかにも「昭和のお母さん」といった風情の中年女性です。

彼女は死んだ夫の親友だった下妻雅治(大坂志郎)を頼りにしており、なにかにつけ相談を持ちかけます。妻が病に臥せっているという下妻は、まゆみに対し、もう笑っちゃうくらい熱烈にアタックを繰り返します。下妻の情熱に押されるように関係を深めるまゆみですが、二人の子供たちの反抗により結局別れを切り出します。「死んだお父さんの親友と付き合うなんて、お母さん不潔っ!」とリストカットしてしまう娘のナイーブさが逆に新鮮。事業と子育てに翻弄される熟年女性の恋愛模様もなかなか複雑です。

芝令子(南田洋子、実年齢23歳)。

23歳年上の会社社長と結婚して10年目の若妻です。
元々いいとこのお嬢様だったらしく、いつも上品な和装で、お茶もたてれば日舞も舞います。
一方の夫は土建屋から叩き上げた剛腕実業家で、絵に描いたような油ぎった中年男です。
夫婦は豪邸に住んで何人もの家政婦を雇っており、何不自由のない暮らしぶりのようです。
そんな資産家奥様である令子の悩みは、夫が自分を一人の人間として尊重してくれないこと。横暴な夫(小杉勇、実年齢52歳が熱演)は令子を他人に見せびらかすための秘書、あるいは女中として扱いますが、夫婦の間に情緒的な交流はありません。

そんな令子の前に、若き実業家立花烈(三橋達也、実年齢34歳)が颯爽と登場します。
イケメン、金持ち、オシャレ、音楽や美術に造詣が深く、独身で…。
女性が望むであろう設定をてんこ盛りした、非の打ち所がないキャラクターです。
立花は令子に対し、もう笑っちゃうくらい熱烈にアタックを繰り返します。
まるでストーカーです。
横暴で品のない小杉勇vs優しく若い三橋達也、どちらも金持ち。
現代の女性なら財産を半分もらってすっぱりと小杉と離婚し、意気揚々と三橋と再婚するはずですので、メロドラマは絶滅してしまいました。
本作の令子は家庭と恋愛の板挟みになって、迷いに迷います。
当時の奥様方は、南田洋子になったつもりで、あるいは轟夕起子になったつもりで、ヤキモキしながらこの映画を楽しんだのでしょう。

「イケてる男性から熱烈にアタックされまくる」という、女性にとって最高のご馳走映画は、当然ハッピーエンドでは終われませんでした。

本作では年上の夫に抑圧された美貌の若奥様、リッチな暮らしの裏で心に大きな空洞を抱える女性、芝令子を熱演した南田洋子。
彼女は監督の次回作「幕末太陽伝」で、女郎こはるとして、ライバルおそめと取っ組み合いの大喧嘩を演じてみせます。
芝令子の憂いを帯びた悩ましげな表情と、こはるのあけっぴろげで溌剌とした表情、違う時代に生きる二人の女性を見事に演じ分けています。

本作には1シーンだけですが、立花の同級生役でフランキー堺、小沢昭一、岡田真澄らも登場し、画面を賑わせてくれます。

監督は日活時代の3年間、9本の映画を撮っています
S30年「愛のお荷物」「あした来る人」「銀座二十四帖」
S31年「風船」「洲崎パラダイス赤信号」「わが町」「飢える魂」「続・飢える魂」
S32年「幕末太陽傳」
5本の映画を撮ったS31年は、かなりのハードワークだったはず。

冒頭の病院の長い廊下、影を利用したモダンで無機質な背景、ガラスの床越しに人物を見上げるバーのシーン、しゃれた演出はそこくらい。音楽も今聴くと流石に古臭くて残念です。
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