シズヲ

侍のシズヲのネタバレレビュー・内容・結末

(1965年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

揺れ動く幕末の世。侍としての武功と士官を望み、大老・井伊直弼の暗殺計画に加わった浪人の皮肉なる顛末を描く。岡本喜八監督が初めて撮った時代劇であり、三船敏郎が自身のプロダクションで制作した2作目の映画。原作は本作も合わせて5度も映画化されているのだから凄い。

雪景色の桜田門外をバックにした冒頭、スピーディなカットの切り替わりと引きと寄りの緩急で映像が決まりまくっている。ラストの井伊直弼襲撃シーンの前哨戦と言わんばかりのキレッキレぶり。そっからの会合シーンを経て三船敏郎の登場、顔のアップと共に「侍」のタイトルバック!この一連の流れ、否応なしに昂揚感が込み上げてしまう。オープニングからして撮影や編集の秀逸さが光っている。引きの絵面とクローズアップの交差に痺れるばかり。

ドラマ部分は作中の情報を開示するための説明に徹している部分もあるし、登場人物の台詞やナレーションは良くも悪くも状況を懇切丁寧に解説してくれる。この辺りは時に野暮ったさに繋がっている感は否めないものの、分かりやすいと言えば分かりやすい。オープニングから続く撮影の格調高さも相俟って視覚的な満足度は常に高いし、白黒の映像による渋い陰影もまた画面の構図とガッチリ噛み合っている。

そして物語を支える名優陣の好演がやはり良い。無頼を気取りながらも等身大の人間性を秘めた三船敏郎、首謀者として飄々と不気味に暗躍する伊藤雄之助を中心に、女優陣も含めて役者達が絶妙な存在感を放っている。優れた撮影と共に映画を引っ張ってくれるキャストのアンサンブル。鶴千代の過去が語られるシーン、東野英治郎の長台詞が延々と続くのにほぼ喋りだけで完璧に場面を持たせているので凄い(まあ長いんだけどね)。

濡れ衣で友を斬ることになり、敵が実の父親であることも知らず、そして井伊直弼の死が何を齎すかも解っていない。侍として名を挙げることを望んだ鶴千代は、皮肉めいた運命を転がり落ちていく。映画のクライマックスを飾る井伊直弼襲撃シーン、桜田門外の大掛かりなセットと吹雪の中で繰り広げられる壮絶な殺陣に唸らされるばかり。混沌とした様相で描かれる斬り合い、前述したような激しいカットの切り替わりによって強烈な緊迫感を生み出している。そして己が侍の時代を終わらせてしまったことにも気付かず、首級を上げて狂喜乱舞する鶴千代の滑稽さ。寒々しい雪景色の描写も相まって、虚しいほどの余韻に溢れている。

それはそうと映画終盤、三船敏郎が刺客を撃退して普通に桜田門外までやってきた時の伊藤雄之助の(マ……マジかよ……)顔が味わい深い。
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