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みじかくも美しく燃えのhasseのネタバレレビュー・内容・結末

みじかくも美しく燃え(1967年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

200919
演出4
演技4
脚本3
撮影3
照明5
音楽5
インプレッション4
男女の不倫、そして純愛の物語。繰り返し多用されるモーツァルトの『K467』は、二人の幸福の高まりに呼応して鳴り響く。前半は過剰なまでに使用されるが、後半、特に終盤はほとんど聴こえなくなる。ケンカして、男が許してと書いた紙切れを川に流し、女が受け取り男に抱きつくシーンくらいか。二人の間の愛は変わらないが、幸福は移ろい、流れていく。
カメラも同じだ。前半は二人の戯れに合わせて躍動的なショットが多いが、終盤は固定的になる。
対比や反復による効果を余すことなく使っている。音楽やカメラだけでなく、シーンについてもそれが言える。ラストシーンはかつて幸せの絶頂期の風景の反復だ。
最初、男は女を射殺できない。何度も弱音をはき、女に強く促される。だが、女が蝶を追いかけ捕まえようとするシーンになると、人が変わったように引き金を引く。男の中で、かつての幸福の光景が客観化された瞬間であり、この風景ーー次の春は巡ってこないことを呑み込んだ瞬間だった。女が蝶を空に向けて放そうとしたところでフリーズし、二発の銃声。終始、静かな輝きを放っていた女優ピア・デゲルマルクの瑞々しく、どこかあどけない表情が画面に残り続ける。

他に印象的なシーンは二つ。
女が腹をすかせて、野生の木の実を貪り食い、挙げ句の果てには地面を這って落ち葉を拾って食べ、嘔吐としたあとの表情。もうこんな生活は続かないという現実を悟った虚ろな目が印象的。
最後のピクニックへと向かう途中、別れ道にぶつかる。一方の道では、アントンという太った初老が土木作業に勤しんでいる。男はアントンに声をかけるが、二人はアントンとは別の道を進んでいく。男が今までの人生を全てかなぐり捨てて、土木作業でもなんでもやってやろうと気概を見せれば、貧しいながらも食っていけるだけの生活は成り立ったはずだ。二人に死を選ぶ以外の道は、まだ残されていたはずなのに。だからこそ、二人の死が悲壮感をもって胸に突き刺さる。

最後のピクニックの準備のときに、女が男に卵のゆで方を細かく聞いたのは何故だろう?女のほうは、死への覚悟は定まっていたはず。最後の晩餐だから入念にと思ったのか、それとももしかしたら、死を選択しない道を見いだすことに一縷の希望を託していたのか。
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