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女吸血鬼のhorahukiのレビュー・感想・評価

女吸血鬼(1959年製作の映画)
3.7
怪談映画の巨匠中川信夫監督による日本初の吸血鬼映画。世界公開を意識したらしく、洋ホラーと和ホラーの混合を試みたために吸血鬼の定石からは大きく外れており、今見ても新鮮に感じるほどのヘンテコな仕上がり。

天草四郎に仕えた男が、四郎の娘の生き血を啜ったことで吸血鬼化して現代まで地底の城で生き延びているという何だか良く分からないトンデモ設定。天草の血を引いているため、キリスト教モチーフである十字架を恐れるどころか印として好んで使い、日光で霧散することもない。更には月光を浴びると吸血鬼化するという人狼要素までも取り込み、風貌は黒ハット+サングラス+黒マントという街に溶け込む気なんて毛頭感じない目立ちすぎる出たち。なんやこいつ!

それでも天知茂さんの吸血鬼としての顔圧は凄まじい。あんな高笑いとニヒルな笑みに説得力持たせられる人はなかなかおらんやろね。吸血鬼化した際の影の入ったメイクがめちゃくちゃ似合ってるし、平常時との落差による異形感も絶妙なカッコ良さ。

配下を従えてるのは本家と同じなのだけど、メンツが小人、ハゲマッチョ、怪猫とめちゃくちゃ個性的。怪猫は実際には怪猫じゃないんだけど、監督の傑作『亡霊怪猫屋敷』でネコ婆さんを演じた五月藤江さんがほぼそのまんまのビジュアルで出てくるもんだから、もう怪猫にしか見えない🤣ハゲマッチョはハゲてるだけで化け物呼ばわりされてるし…可哀想😭

明るい画面の中に意味深に闇を端の方に並存させる構図が吸血鬼という題材にガチっとハマってるし、吸い込まれるような深淵の闇を吸血鬼の素性を語る深部で演出として見せてくるあたりも手堅い。『吸血鬼ノスフェラトゥ』を思わせる忍び寄る影や階段の上から見下ろす吸血鬼の凄みは同種映画の定石だけど、チャンバラ映画のような大立ち回りを見せるクライマックスはやはり怪談映画(時代劇)を思わせるから不思議な感覚。

吸血鬼は日本刀みたいなものを振り回して襲いかかってくるのだけど、安全な小道具を使っているのかと思いきや、一箇所、かすった壁に穴が空くシーンがあり、凶器になり得るものを使っているように見えてくるから別の意味でハラハラしちゃう。壁が脆すぎるのかもしれないけど、その一箇所以外では壁に当たってもなんともなかったから、武器がかなり頑丈なのではないかと…。

ちなみに美術は中川監督といえばこの人な黒沢治安。地底城の内装の気合の入れようは流石のひとこと。上下階で分かれた空間の中をチャンバラする遠景、柱と階段を利用した動線も面白い!

吸血鬼映画の定石ではキリスト教側の善が吸血鬼を滅ぼすわけだけど、舞台が日本でかつ天草四郎題材だから、キリスト教側が悪として描かれて吸血鬼と同化しているのも面白い。作中では呪われた血とか言われてるし😅

U-NEXTに中川監督作がたくさん入荷されたんで、出来れば『怪異宇都宮釣天井』あたりもお願いしたい!
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