桃子

武士の一分(いちぶん)の桃子のレビュー・感想・評価

武士の一分(いちぶん)(2006年製作の映画)
4.5
「盲目剣谺返し」

山田洋二監督の「時代劇三部作」の完結作をようやく鑑賞した。前2作と同様に、台詞は東北弁である。木村拓哉演じる三村新之丞も、もれなく訛った台詞をしゃべっている。板についていて見事だ。でも、私は1作目の真田広之清兵衛のズーズー弁の方が断然好きだなあ。
原作は「隠し剣 秋風抄」に収録されている9編の短編の最後にある「盲目剣谺返し」である。本編の中で「谺返し」という言葉は出てこなかったように思う。でも、監督は隠し剣のことを言いたいわけではないので、なくても別に問題はない(だからタイトルを「武士の一分」にしたのだろうし)。ただ、なんとなく寂しなあと思っただけだ。
ひとつ不思議だったのは島田藤弥(原作では島村藤弥)を演じている坂東三津五郎が標準語だったこと。近習組頭の他の上役達はみんな訛っているのに、彼ひとりだけまるで江戸から来たばかりの人間のようにしゃべっていた。原作は全員標準語である。坂東さんが訛るのはイヤだと言ったのかもしれない。でも監督は前2作を訛った台詞で作ったから、それを通したのだろう。私の勝手な憶測なのであしからず。
それと、原作では島田は若くて背の高い、いつも皮肉な笑いを浮かべているようなイヤな感じの男である。なぜ坂東さんがキャスティングされたのか、それもちょっと不思議だった。
中間の徳平は笹野高史が演じている。これはイメージにぴったりだった。新之丞の奥さんの加世もぴったり。壇れいが演じている。彼女の東北訛りは可愛らしく聞こえた。美人は得じゃのう(笑)
原作を読んで映画を見て、また原作を読んだ。ほぼ原作通りなのだが、ところどころ変えている。原作を読んでいても、細かいところまで覚えていないので鑑賞直後にはわからなかった。読み返してみてわかったのである。変えているからといって支障があるわけではないのだが、別に原作のままでもいいじゃないと言えるような変更だった。監督の何かのこだわりだったのかもしれない。
原作を読み返さなくてもすぐに違うとわかった部分があった。変更というより、省略があったのだ。新之丞は盲目になってから剣の稽古を再開して、音だけをたよりに剣の腕を磨く。その際にアブだの蜂だの飛んでくる虫を木剣で叩き落とすのだ。映画ではそういうシーンは全く出てこなかった。なんで??重要なシーンだと思うんだけどなあ。
原作を読んでいるせいもあって、不満な点はけっこうある。でも、全体として見ると、非常によく出来ている映画と言うほかはない。なんだかんだ言っても、やはり木村拓哉は演技が上手いのだ。
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