平野レミゼラブル

新選組血風録 近藤勇の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

新選組血風録 近藤勇(1963年製作の映画)
3.3
【武士と自由人の奇妙な友誼が油小路へと繋がる】
『CHAIN/チェイン』の方で少し語った、珍しい「油小路の変」をメインに据えた新選組映画。
マイ・ベスト・司馬遼太郎作品である傑作短編集『新選組血風録』を題材にした初の映画でして、1963年製作ともあってかなり古い。なんせ公開当時に『燃えよ剣』が連載中だったくらいですからね。司馬さんの小説の映像作品としても『恋をするより得をしろ』、『梟の城』に続く3本目。というか『恋をするより~』ってなんだこれ。現代劇?司馬さんこういうのも書いてたんだ……
まあ、そんな初期も初期の作品だけあって新選組の面々も、隊長格すらほとんどイメージ固まってない有象無象なのが新鮮。それでも紋々入れてヤクザっぽい左之や、二枚目な沖田などは現代でも通じる感じでちょっと面白い。あと、流石にトシに関しては『燃えよ剣』の方とそこまで差がない感じです。演者が加藤武ってのは意外だけど存外悪くはない。

アバンでいきなり池田屋事件が始まって、宮部鼎蔵を近藤勇が介錯するところでタイトルクレジットな時点で「新選組の説明はもうし尽くしたから、あとはもう油小路までの流れを描く」って前振りは完璧。どう足掻いても池田屋が新選組のピークにあたる以上、油小路を主軸に据えるには冒頭にわかりやすく置くしかありませんからね。
しかし、本作63年の白黒映画にしてはしっかり斬り合いの残虐さを描いていたのには驚きます。いや、腹を切ったらじわ~っと血溜まりが広がったり、刀を一閃させて何か腕らしきものが飛んだりって程度なのでグロいとかそういうのでもないのですが、昔の時代劇は血糊すら使わないものが多いので結構ビックリでした。
そのため、殺陣は意外と外連味があって見応えがあったのは嬉しいところ。油小路の決闘でもちゃんと服部武雄が二刀流で無双してくれたので、個人的な観たかったところも観れて一安心。

本作は『新選組血風録』内の一篇「油小路の決闘」の映画化ですが、主人公はタイトル通り近藤勇局長へと変更しています。因みに原作での主人公は御陵衛士・篠原泰之進で、本作でも準主役として関わっていきますが、一方で原作での近藤勇って地の文で触れられるだけに留まっているんですよね。
そのため、話の内容自体が大きく変わっており、愚直に武士の模範としてあろうとする近藤と、のらりくらりと生きていく篠原。その対象的な2人の友誼と決裂を描いたブロマンスの要素が結構強い。「あれ?こんなんだっけ?」って気になって原作読み返しましたけど、そっちでは篠原は近藤のことを毛嫌いしていたので内容がまるっきり正反対になっています。

そのため、原作再現度という意味では物凄く低く、原作で繰り返し強調されオチにも繋がっていた篠原の水で耳を洗う奇癖なども軒並みカット。近藤のキャラクターも、司馬さんが「虎徹」などで描いた「人間的魅力はあるが俗物」ではなく、演じる東映重役スター市川右太衛門に合わせてか「真面目で武士らしくある傑物」って感じなので結構ギャップがあります。
実際、司馬さん自身も映画の内容には不満を持っていたらしく、その不満の要因はこれらの改変点にあることは想像に難くありません。

一応、士道不覚悟で切腹しようとして情婦に止められる篠原など原作通りの部分もあり、そこを映画では徹底して近藤との奇妙な友情に繋げているので、映画単体では違和感はなく面白くはあります。油小路の決闘から天満屋事件まで繋げちゃうのはかなり大胆な翻案ですが、これはこれで面白い解釈。
改変された結果、別に題材が新選組じゃなくても成り立つ普通の時代劇になったという、栗塚旭版『燃えよ剣』と似たような感想となるのは否めませんが、別段悪くはない作品って感じですね。