らんらん

スモークのらんらんのレビュー・感想・評価

スモーク(1995年製作の映画)
4.7
ウェイン・ワン、1995年。

小説『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』(1990)を原作に、著者のポール・オースターが脚本を担当した群像劇。
監督は『ジョイ・ラック・クラブ』(1993)のウェイン・ワン。

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1990年、ニューヨーク、ブルックリン。

少し危険で、工業が盛んな下町の街角。小さな煙草屋の店主をハーヴェイ・カイテルが演じる。
「煙草の煙の重さを測る」という、人を喰ったような話を披露する小説家をウィリアム・ハート。他にフォレスト・ウィテカー、アシュレイ・ジャッドなど。

正しいか正しくないのか、嘘かまことか、虚か実か。そこが気になる方は観ない方が良いでしょう。本作曰く、そこじゃない。
何もかもが煙のように立ち上り、煙のように消えて行く、人間だってそんなもの。
だけど微かに残るものがある。

一瞬確かに「あった」と言える何かを捉えるがごとく、煙を掴むように毎朝同じ街角の写真を撮り続ける、煙草屋オーギー。
変わらない(ように見える)街の写真、同じ価値の札束、ただの通りすがりの人間に、意味を与えるのは誰。そんな何かが連鎖して、街を作り、人生を作り、小説を作る。厳しくて哀しくて、温かいスモークが満ちている。

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ポール・オースター氏の逝去に際し再鑑賞。

しゃれた作品で公開当時大ヒットしたのを覚えている。
ちなみに1995年は、村上春樹で言えば『ねじまき鳥クロニクル』第三部が出版された年。村上龍なら『KYOKO』。

ユーロスペースでオースター3作(本作、『ブルー・イン・ザ・フェイス』、『ルル・オン・ザ・ブリッジ』)特集とかないのかな。そうなるとリマスターですね。

当時大層胸を震わせたけど、見直してみると、脚本に小説家らしさが出てしまったのか映像より言葉が勝るシーンが少し目に付いてしまった。もったいない。
カイテル、ハート、ウィテカー達はずっと見ていたい。裸王カイテルは今回は上半身のみ登場します。(夏だから)

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「信じる者が一人でもいれば、その物語は真実にちがいない」
__ポール・オースター

予告編より。
トム・ウェイツのワルツにのって。

ご冥福をお祈りします。
らんらん

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