義民伝兵衛と蝉時雨

アレクサンダー大王の義民伝兵衛と蝉時雨のネタバレレビュー・内容・結末

アレクサンダー大王(1980年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

紀元前の英雄アレクサンダー大王を近代のギリシャに登場させて、真に平等で公平な社会の樹立という夢と、その夢の終焉が描かれている。

タイトルは「アレクサンダー大王」でも、描かれているのはアレクサンダー大王の人生や伝記ではない。義賊のカリスマという設定のアレクサンダー大王が、国民から搾取する利己的な国家に抵抗する共産主義やアナーキストの若者達と共闘して英雄になっていく様子が前半では描かれている。

しかし、後半は一転して、アレクサンダー大王が英雄から独裁者に変貌していく様子が描かれている。

本作の最大の見どころは完全に主題にあると思う。本作の主題は社会主義や共産主義の限界、または社会主義の理想と現実、希望と絶望。真に平等で公平な社会を実現させる為に行動した変革期の若者達。その大いなる夢や希望、そしてその先に待っていた絶望。支配者は変われど支配者達の変わらぬ暴力的な搾取。それらが淡々と描かれている。

社会運動が盛んだった公開当時の時代に、真に平等で公平な社会の実現など到底不可能であり叶わぬ夢にすぎないと、時代に先駆けて、悟り、絶望し、語り、表現した、作品でもあったとのこと。

理想と現実のギャップ = 英雄が独裁者へと変貌、分かち合いが奪い合いへと変貌、希望が絶望へと最も簡単に崩れていくその様子、それらをアンゲロプロス監督は前作「狩人」の流れを受け継ぐロングショットの長回しを効果的に多用して、極めて冷静に、淡々と、客観的に、ドキュメンタリーチックに、現実的に描写している。

社会主義の限界。机上の空論止まり。結局は理想論。もし革命が起きたとしても喜びは束の間。表面ヅラは違えど中身は同じ権力者達による巧妙な搾取の繰り返し。中国なんかを見てれば正にそう思う。社会主義の皮を被った独裁。共産主義の皮を被った独裁。結局待ち受けるのは国家による独占、権力者達による独占。形態や体系は違えど、国家や政治への不信感はどの国も同じ。日本も勿論。理想的な社会の樹立への絶望感。悔しさ。歯痒さ。もうこれ以上のどうしようもなさ。限界値。それらが炙り出された傑作だった。アンゲロプロス監督の政治的アプローチの巧みさ。その芸術力。またしても圧倒された。心の底からリスペクト。