ミシンそば

アレクサンダー大王のミシンそばのレビュー・感想・評価

アレクサンダー大王(1980年製作の映画)
4.9
一度挫折したが、今回最後まで漸く観ることができたアンゲロプロス作品。
「「旅芸人の記録」を観る」と言う大型アップデートを経て、少しだけアンゲロプロスへの苦手意識を払拭できたかもしれない。

残念ながらDVDで観れるのは短縮版だが、描かれているのは一貫して、信念と政治思想を曲げずに貫き通すことの難しさと、自分の中で解釈した。
況してや二十世紀出身者が一人もいない二十世紀最初期の人々は共産思想に対してあまりに無邪気で、理想主義が過ぎる。
理想の押し付けがアレクサンダーを独裁者化させる様は、二十世紀の経過と共に死ぬか、違う何かに変容するかした社会主義国家郡が辿る道筋のようだ(製作時期的にほとんどの国が「そうなる前」だが)。
カリスマの限界云々を語るシーンが二度あるから、そう描こうとしていると自分はどうしても感じた。
アンゲロプロスの政治思想はもう観れば分かるくらいに露骨なんだが、そう言った部分は相当鮮烈に描かれており、思考の偏りがそれほど酷くない点で、物語的な視野が広い。

後半からのあまりにもあんまりなアレクサンダーの独裁ムーヴと、少しずつ人をやめようとしているとさえ言えるような非道振りは、まさしくラストに向けての壮大な前振りだろう。
終盤、“英語”が聴こえてからの絶望。
そしてアレクサンダーが辿る、当然だが、とても奇妙と言える結末。
ラストの何気ない台詞で人間の本質を示すのも非情だが美しい。

「天国の門」に求めていた悲惨さ、醜さ、そして美しさ、イデオロギーのクソさをこの映画の中に見出だすとは、やはり映画と言うのは面白い。

自分は通常、凄いと思った映画でも個人的に好きになれなければ高得点は付けない気でいるが、この作品にはどうしようもなく敬意を表したい気分だ。
アンゲロプロス、もっと観よう。