むっしゅたいやき

アレクサンダー大王のむっしゅたいやきのネタバレレビュー・内容・結末

アレクサンダー大王(1980年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

所有と権力の亡霊。
テオドロス・アンゲロプロス。
先ず始めにことわっておくが、私は本作を古代のアレクサンドロス大王の年代記か何かであると勘違いしていた。
この為、鑑賞にあたって非常に面食らい、レビューに於いてもその影響を拭え得ない物となった事を告白しておきたい。

扨、本作である。
“アレクサンダー大王”と呼ばれる一人の賊徒を主人公に採り、彼の居住する或る共産主義コミューンの衰亡を描いた作品である。
アンゲロプロスらしい寡黙な長回しショットが冴えるが、前中盤に就いては大王自身の台詞どころか述懐も無く、冗長な感が拭えない。
特に賊徒帰還の夜の宴のシークエンスは、少々手持ち無沙汰になった。
全編208分の内、最後の60分で物語は堰を切った様に流れ出し、カタルシスと余情を生む作品である。

本作のテーマは作中幾度も口にされた、「所有とは」「権力とは」であろう。
自由を望み、それを求めて団結した者達が其れを手にした瞬間、持て余し分裂しだす描写は古今数多の作品で見られるが、底流に上記問いを含ませたのがアンゲロプロスらしくある。

黒衣の村人達の人集りの後、何故彼の姿は消えたのか。
其れは恐らく、作中と云う寓話から我々自身の居る現実へ上記問いを回帰させる為であり、大理石は作中大王が語った“眠りから覚めたら抱いていた重荷”、続く姿の見えない馬蹄は其の恐怖が我々の直ぐ傍らに在る事を知らしめる描写であろうか。

ギリシャ近代史に根差した家族的悲劇を描く印象の強い監督であるが、本作のテーマは社会的普遍性の有る物であり、彼のフィルモグラフィの中でも特異な物に見える。
アンゲロプロスのファンならずとも、抑えておきたい作品である。
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