tsukiko

ハッシュ!のtsukikoのネタバレレビュー・内容・結末

ハッシュ!(2001年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

映画「ハッシュ!」を20年ぶりくらいの鑑賞。

オープンなゲイである直也と、周りの人々には自分の性指向を隠している栗田、流されるがままに生きており自分の衝動が抑えきれない朝子。子宮筋腫を患ったことをきっかけに子どもが欲しいと思うようになった朝子が、たまたま出会った栗田を直感で“いい父親”になれる人間だと判断し、子種になってほしいと懇願して奇妙な3人の関係がスタートするヒューマンドラマ。

ゲイというセクシャルマイノリティーである直也と栗田と精神疾患を抱えるマイノリティーである朝子が出会い、そこから新しい家族を作ろうとしたら、普通に生きてきて老いた普通の人たち(直也と栗田の家族)が邪魔をするという分かりやすい展開になっているので、本当によく出来ていると思う。もちろんちゃんとハッピーエンド。しかも、ご都合主義的なラストでないところもとても好感が持てる。

現在では産まないとう選択肢もだいぶ認められるようになったけど、映画公開当時は2001年。今よりも結婚しない女性、産まない女性への風当たりは非常に強かったことは想像に難くない。

劇中で朝子がなぜ子どもが欲しいのかの詳細は描かれていない。時代背景や本能的なものなのか説明は省かれており、その手段として最初からゲイだと知っていた男性に願い出ることで物語が動き出す。

当時は(というか今もだけど)普通とは違う生き方をする女性どころか、当然ゲイに対しても風当たりが強い世の中だった。そんな彼らの前に、“理解ある彼くん”を求める顔だけはいい女が立ちはだかり、3人の関係を引っ掻き回した挙げ句ぶち壊そうとする。そうか、この時代からああいうタイプの女は嫌われていたのかとそういう役回りで描かれていることに感心する。

ああいうとは、自分を弱者に見せつつも手段を選ばず依存先を追い求めて周りの迷惑を顧みず邁進する女のことである。理解ある彼くんを追い求める女性の全てがこうではないが、ある一定数存在するタイプだ。

つぐみ演じるこの女のせいで、ゲイ2人の両親が家に乗り込んできて朝子の精神を揺さぶった挙げ句激怒させ、少しずつ構築されていった3人の関係は一度壊れてしまったように見える。しかし既に信頼関係が築かれていたため関係は修復され、最後は朝子が栗田の子どもを作った後に直也の子どもを作ろうという気になって終わる。ちなみにまだ実現はしていないし実施されてもいないし、本当にそうするのかまでは描かれずに終わる。

男女がいて子どもが生まれて、祖父母がいて、そういう普通の家庭こそ正義だとしてきたこの国だが、虐待は多く、殺人こそ少ないものの、その4割ほどは親族間に発生している。凝り固まった家族像にすがった結果、人々はストレスをためて子どもを虐待して、虐待された子は大人になって子を作らない道を選ぶ。当然だと思う。親が子育て故のストレスで子どもを虐待することに甘すぎるのもそもそも問題なんだけど、無駄な人情から人は簡単に許してしまう。子どもからしたら、いやふざけんなという話なのだが、大人のフィルターを通した耳には届かない。結果、未来の子どもはどんどん減っていく。直接的な原因でない場合も遠因にはなっているだろう。

親のストレスを減らすためにも、家族の形を今一度見直す必要があると感じる。1人の子どもを母と父が育てるのではなく、複数の大人が育てるはとても有効だ。そう、直也と栗田と朝子が目指す未来のように。そして、何も父と母でなくてもいい。父と父と母、母と母と父、母3人、父3人、もしくはもっと大勢の大人が一緒に住んで子どもを育てるのだってありだと思う。檻は一度壊したほうがいい。

20年以上前の映画だというのに日本はあまり変わらず、多くの人々は無理して普通の家族の形を作って、緩やかにほろんでいく過程にある。

とりあえず頭を柔軟にして、本当に今の家族の形が最適なのか考える人が増えたらいいのに、とこの映画を見返して強く感じた。
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