Kumonohate

女囚と共にのKumonohateのレビュー・感想・評価

女囚と共に(1956年製作の映画)
4.0
昭和30年に出版された女子刑務所所長による手記をもとにした作品。1956年作。とある刑務所を舞台に、収監する側とされる側の様々な人間模様が描かれると同時に、女性受刑者の社会復帰に対する世の中の理解が真面目に訴えられている。

原節子主演ということで永らく鑑賞を切望していたが、遂に念願が叶った。そして、聞きしに勝る衝撃作だった。

まずはキャストが衝撃的。刑務所長に田中絹代、保安課長に主役の原節子、看守に菅井きん、一方の女囚には、木暮実千代・浪花千栄子・香川京子・久我美子・岡田茉莉子・淡路恵子といった錚錚たるメンツが名を連ねている(しかも、彼女達の罪状は浪花千栄子以外はみな殺人罪!)。看守による就寝前の見回り時、とある雑居房の扉を開けると、囚人服を着た木暮実千代と香川京子が正座してカメラを見上げている。思いっきり態度とガラの悪い久我良子が、髪の毛を振り乱して別の受刑者と乱闘する。仮釈放された淡路恵子が、勘違いから夜道で原節子に斬りかかり、深手を負った原とくんずほぐれつのもみ合いとなる。などといった仰天モノのシーンが続出する。

エピソードも衝撃的。所内に保育所があって、そこには受刑者達の子ども(3歳未満)が預けられていて、夜になると子どもたちは雑居房で母親と一緒に就寝する。そんな子どもの一人が疫痢で亡くなり、悲観した母親(岡田茉莉子)が独房で首吊り自殺する。病を患った受刑者が危篤状態に陥り、恋人が駆けつけるが、一足違いで受刑者が死んでしまう。独房でストリップの練習をする。受刑者同士の同性愛。そして、トドメは、結婚話。刑務所の近所に暮らす厚生委員のおばちゃんが、バツ2の男がお嫁さんを探しているといって所長(田中絹代)に見合い話を持ってくる。「誰がいいかしらね」と思案した所長は、保安課長(原節子)に相談などしながら、最終的にはある模範囚(香川京子)に白羽の矢を立てる。そしてクライマックス、所内の美容室で受刑者(久我美子)に高島田を結ってもらった香川は、色打掛に身を包み、看守たちに付き添われて、何と、刑務所からお嫁入りしてしまうのである。

兎に角、開始早々丸くなった目が、最後まで元に戻ることは無いほどの衝撃のオンパレード。だが、冒頭にも書いたように、制作姿勢は極めて真摯だ。受刑者の多くは、男性優位社会の犠牲になり、やむにやまれず罪を犯した女性であること。前科者に対する世間の無理解や冷たさが、彼女等を再犯に導いてしまうこと。受刑者達が娑婆に出たときに生きてゆけるよう、刑務所は彼女等に技能を身につけさせる機能を備えるべきであること。刑務所から嫁を出すといった未来志向の出来事が、どれだけ他の受刑者の希望になるかしれないこと。……等々、愛と善意に満ちたメッセージが、2時間30分という長尺を費やして語られる。

本作のキャッチコピーは、「11大女優(上記以外に、安西郷子、杉葉子、中北千枝子)競演」。オールスター映画に女子刑務所モノを持ってくるというセンスには驚くが、それほど、女性の地位向上が重要でホットなテーマだったということだろう。映画のタイトルに使われる「女囚」という単語に、まだピンク色が付いていなかった時代のお話である。

追記:役柄上、キッとした冷たい目つきや下目遣いでこちらを見下げる原節子がちょこちょこ登場するのも、「めし」や「驟雨」の原節子が一番だと思っている自分には嬉しい出来事であった。
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