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真昼の決闘のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

真昼の決闘(1952年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

教会で結婚式を挙げ、退職して町を去ろうとしていた保安官ケインと新妻エミー。そのとき、ケインに恨みを抱く4人のならず者たちが彼を殺しに町にやってくるという知らせが届く。留まって彼らと決闘するか、町から逃げるかで悩むケイン。決闘のときは一刻と近づいてくるが…。

子供の頃から有名な映画だが、今まで一度もちゃんと見たことがなかった。
単純な勧善懲悪、ヒーロー物のアクション娯楽西部劇だと思っていたのだが、全く違う。いい意味で裏切られた。
決闘シーンは最後の最後、心理描写を重視をした人間ドラマをリアルタイム形式で描くサスペンスタッチの西部劇の名作である。

主人公ケインは決して熱血漢の英雄ではなく、老いた身体では勝てないと、戦いに恐怖して結婚したばかりの妻と逃げることも考える普通の男。
町の人々も関わりあうのが怖くて、彼に協力しようとはしない。
開拓時代の困難を共に乗り越えようとする協力の精神もない。
もしも、そんな事態に立ち会ったなら自分はどうするだろうか?
ケインの立場なら?町民の立場なら?と、考えさせられる。
まるでイジメやハラスメントに対峙した状況に似ているため、現代でも充分通用する物語には普遍性がある。

最後まで職務を全うしようとするケイン。
かつて父と兄を殺されたエミーは、正義よりも命の方が大事だと説得するが、ケインの意思は固い。
ケインは仲間を集めに奔走するが、誰も耳を貸さない。
保安官助手のハーヴェイは、腕はいいが精神的に未熟な若者で、ケインの後任に自分が選ばれなかった恨みと、かつてはケインの恋人だった婚約者のヘレンとケインの過去への嫉妬もあって協力を断る。

わが身に火の粉が降りかからぬように傍観者を決め込む者達。
酒場の飲んだくれたちは、ならず者一味を応援する始末。

守るべき者たちに裏切られ、遺書まで書いて覚悟を決め、たった1人で決闘に赴く、ゲイリー・クーパーの姿があまりにも孤独だ。
だが、町を出る列車に乗る寸前、ケインを見捨てることのできなかったエミーが町へ戻る。
戦うケインを援護し、背後からガンマンを1人倒すエミー。
ボスは彼女を人質にとってケインをおびき出すが、エミーに抵抗されて一瞬怯んだ隙に、ケインに撃たれる。
決闘が終わって、2人は強く抱き合う。

今更のように町の住民が集まって来るが、ケインは軽蔑の目で皆を見まわして、保安官バッジを足元に捨てると、馬車にエミーと共に乗り、町を去って行く…。

職務遂行の信念は立派だが、そもそも守るべき住民の協力を得られず、逃げることを勧められたケインに留まる義理などなかったのではないか?
新妻のことを考えればプライドを捨てて退くのも勇気だったのではないか?
それではドラマにならないかもしれないが、現実的にはあってもおかしくない。
だが、誰かが行動しなくてはならないところに勇気の美しさがあるのも事実。
事件は見事に解決しているのだが、登場人物の心の中はハッピーエンドではない。

タラレバの話ではあるが、試練に直面した時の己の振舞を考えさせられる深みのある作品である。
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