『ベルリン・天使の詩』(独: Der Himmel über Berlin, 英: Wings of Desire, 仏: Les Ailes du désir)1987
守護天使ダミエル「僕らはいつだって永遠に幻なんだから。
誰かと夜中に格闘した。あれも幻。
魚を捕まえたのも幻。
テーブルについて酒を飲んだのも幻。食べたのも幻。
子羊の肉を焼き酒を注いだ荒野の天幕の外。あれも幻。
子供を作り木を植えるとまでは言わないが。
いいもんだろうな。長い一日の後
家に帰り、フィリップ・マーロウの様に猫に餌をやる」
カシエル「いや、孤独に、何が起ころうと真摯であれ。真摯でなければ荒れ狂う事もできない。ただ見守り、集め、証言し、守るだけでいい。霊でいよう。距離を保ち言葉でいよう」
私たち死すべき定めの人の子には知る由もないがこの世界には守護天使が溢れている。彼らの姿を私たちは見ることができない。彼等は私たちがする事を見ているだけでなく考えていることすら聞こえているのだ。そして天使が見る私たちの世界はモノクロだ。
その守護天使の一人ダミエルがサーカスの空中ブランコ乗り芸人に一目惚れして天使をやめて人間として生きる事を選ぶのだ。
とてもシンプルなストーリー。モノクロで撮影された1986年の東ベルリンとそこに生きる人々が映像詩の様に描かれる。ベルリンそこは第三帝国の首都。ヨーロッパを征服しロシアやアフリカまで手を伸ばしたヒトラーが最後を迎えた場所。ヒトラーがもたらした戦火で亡くなった沢山の亡き骸が積み重ねられた場所。
ダミエルの台詞に登場するフィリップ・マーロウはレイモンド・チャンドラーが創造したハードボイルド私立探偵。
ハードボイルド探偵小説の始祖ダシール・ハメットの「マルタの鷹」は三人称で書かれてる。「サム・スペードは」で書かれている。
一方チャンドラーのマーロウ物は一人称。「わたしは」で書かれている。誰からも見えない観察する人である守護天使は私立探偵(プライベート・アイ)にも似てる。
そして元天使のピーター・フォークが撮影している映画での役は私立探偵だ。
人々の生きる有様を観察し記録する天使は探偵にも似てるし映画監督にも似ている。だからこの映画の最後の献辞はこう書かれている。
「この映画をかつて天使であった人々、分けても安二郎、フランソワ、アンドレイに捧ぐ」
ああこの人達は地上に降りた天使だったのか。
永遠の命を持つ天使から死すべき定めの人の子になった限りある総天然色の世界を愛する人と生きていく。
「昔々あった事、だからこれからもあるだろう。いま、僕は知っている。天使ですら知らない事を」
ダミエルはサーカス芸人マリオンに会いに行く。マリオンはライブホールのバーの止まり木にいるダミエルに近づき彼が持っているグラスから酒を飲む。まるで聖杯の様に。そして相手が誰かなど尋ねないでしっかりと抱き合う。
皆さんビビッときた「運命の人」はきっと元天使ですよ。