ダイナ

ドニー・ダーコのダイナのネタバレレビュー・内容・結末

ドニー・ダーコ(2001年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

銀色のウサギに導かれた青年の日常が異変で侵食されていく青春カルトSF。興行収入は振るわなかったものの謎を解明しようと考察好き達の心を掴み当時のDVD発売時はヒットチャート一位に。DVDの売上で公開時赤字だった製作費を回収できたから凄いです。住宅の上空に浮かぶ登場人物達で構成されたウサギが目立つパッケージの禍々しさ、ミステリアスな雰囲気をもちつつ学園恋愛モノが展開されるストーリーに散りばめられた謎と不穏な事件、メッセージ。倒錯した青春を謳歌しつつリミットを迎えた時、主人公ドニーダーコに何が起きるのか…。

監督曰く観客に考えてもらうことが狙いという事で、わざと謎を明かさない作りにしたそうです。観客個人がこの世界について考え、情報を他者と共有・議論、残った謎はリピート鑑賞で再確認というサイクル。単純な穴だらけ映画であればリピートはされませんが、そこは本作の役者陣の演技、演出、世界観の求心力が高かったからこそでしょう。

「正解」に近づきたいのは誰もが思う所。単純なタイムトラベラーものとして受け入れるには不可解な要素が多い本作の真相に近づくには何を知るべきか。ディスク特典映像にある「未公開シーン集」のコメンタリーや「10のシーン解説」の一部から本作が「パラレルワールド」モノであることが分かりますが、根幹には触れられていません。この世界を解明するカギ、それは「タイムトラベラーの哲学」にあります。

・タイムトラベラーの哲学とは?
昔は公式サイトで公開されていたそうですが今は見つからず。日本版公式サイトはあったのでしょうか。現時点、原文はネットで見る事ができます。その記述はまさに本作の世界観、キャラの役割を記したものとなります。

【キーワード】
①プライマリーユニバース(以下PU)
>主宇宙。実際の世界線。

②タンジェントユニバース(以下TU)
>接宇宙。パラレルの世界線。世界の維持には時限あり。

③アーティファクト
>金属物質。②発生時の生成物。

④リビングレシーバー(生きる受領者)
>③を①へ戻す指名を授かった人間

⑤マニピュレイテッドリビング(被操作対象者)
>④の周囲の人。奇怪で暴力的な行動を取る性質があるが裏の真意は④のサポート。

⑥マニピュレイテッドデッド(被操作対象死者)
>④をサポートする役割を持つ強力な力を持つ人達。個人的にはこいつらの設定が本作をすげえややこしくしていると思ってる。

鑑賞された方は上記のクッソ省略した説明文でもピンとくるでしょう。詳細を書くとただの丸写しになりそう、かつ長くなりすぎるので割愛します。(深く知りたい人は原文訳してみよう)「タイムトラベラーの哲学」には本作の謎要素がきっちり記されていたのです。

キャラ関係図を馴染み深いもので例えてみると理解がしやすいかもしれません。サザエさんに例えるとドニーがカツオで姉の恋人ポジであるフランクこと銀の兎はマスオさんです。TUの発生より上位存在達は世界の崩壊を防ぐために、突如発生した旅客機エンジンをPUに戻す(元の世界線に戻る)よう⑤⑥を利用しながら役割に適したカツオを誘導します。TU上でカツオに銃殺されたマスオは⑥の存在へ変身しカツオを誘導。バタフライエフェクトの如くたどり着いてしまった「フネとワカメの飛行機事故」を避けるべく、カツオはエンジンをPUに戻す決断(=世界崩壊を防ぐため自分の死を受け入れた)をしたのです。…整理するために例えたのに訳分かんなくなってきました。自分の本作のワームホールの理解がまだ浅い。

暴行→自動車事故の辺りは正直強引というか急に雑になった感じを受けたんですがこれは⑤の性質である「奇怪・暴力性」に基づく所だったんですね。そんなんアリかよ。リビングレシーバーの超能力設定とかもツッコみたい所はあるっちゃありますが書くとキリがねえ。未公開シーン・ディレクターズカットで増した人間関係の深掘り。劇場公開版よりもクライマックスのドニーの孤独かつ周囲から受けた・与えた影響の大きさがグッとパワーアップしていて良かったです。

ジェイクギレンホールの危うい感じは若い頃から発揮されていて良き。最高の俳優です。初見時は再鑑賞はしたくなるけどそこそこの良作止まりという印象でしたが、苛つきもする複雑な裏設定の興味深さや広い解釈を受け入れる映画の作りと監督の狙いの面白さ、鑑賞後に考える楽しさというものを再確認させてもらえた点より、傑作と位置付けさせてもらいます。特典映像や「〜哲学」を知ることでの面白さが大きいので配信だけで観たら不完全燃焼感なことは間違いなし。映画一本に時間かけたくない人には勧められねえ。映画三本分の時間を本作に費やした気がするけど…悔いなーし!

補足1)「タイムトラベラーの哲学」の確認方法について
訳あって中古300円で本作のDVDを買っていたのですがなんとその中に「タイムトラベラーの哲学」の一部(邦訳)が記述された公式ペーパーが!(保存状態最悪でくしゃくしゃだったのはまあ値段相応と受け取って)UHD+ Blu-ray版には入っていなかったので気になる物好きな方は中古DVDを漁ってみたら挟まっているものに出会えるかもしれません。

補足2)DVD版のユニークさ
特典映像「ジム・カニングハムの恐怖克服セミナー」、DVD版ではセミナー映像の後で作中にあったFEAR・LOVEクイズを出されます。これが教師の思惑にそぐわない答えを選択するとセミナー映像の最初に戻されるという洗脳形式の仕掛けありというユーモアが面白いです。中間押したらドニーが出て来るとか期待したんですがね。
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