LATESHOW

ピクニックatハンギング・ロックのLATESHOWのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

4Kリバイバル上映にて鑑賞。

世にも美しい神隠しの物語。
どんなに綺麗な夢も目が覚めると忘れてしまう。
やけに鮮明に憶えている夢のよう
奇妙な感覚の映画。

ボッティチェリの天使と呼ばれた美少女は
一体何に気付いてしまったのだろう。
この鳥達が何処へ行くのか
気付いてしまったんだろうか。
岩山に吸い込まれた少女の行方は誰も知らない。

初めて観た時は
少女はそして美しいまま時を止め永遠となった、
的な耽美的解釈だったが
少女達を捉えるカメラに性的趣向は皆無であり
またピーター・ウィアー監督の作家性を考えると
ここではない何処かが在ることに
気付いてしまったが故の
狭い世界の崩壊が始まるお話しに
今は感じる。
消えた少女達の謎めいた呟きに、特に。

岩山で脱ぎ捨てた靴下やコルセット、
微睡みと蜥蜴、
屋上から見下ろす飛べない鳥だった少女...。

今見返すと以前とは感想全く違ってくるなー!

これは抑圧からの解放となる近代神話であり、
狭く息苦しい寄宿舎の崩壊が始まるお話しだ。

息をのむほどの美少女ミランダは
「ここではない何処かに今日出発する」のを
映画がはじまるところから既に知っていたのだ。

ずっとここにいて欲しいと友愛を捧げる
不幸な境遇のクラスメイトのセーラにミランダは
出発前夜どこか悲しげに微笑む。
ピクニックに行けず屋上から手を振るセーラと
岩山に入った瞬間飛び立つ鳥の群れを
それぞれ見上げる彼女の視線は
何を意味しているのか。

岩山で姿を消した少女達の直前の呟きは
まるで預言者のようだ。
手袋を、靴下を、コルセットを脱ぎ捨て
ここではない何処かに出発する。

文句ばかり垂れる豊満な子は悲鳴をあげ逃げ出し
共に消えた先生が下着姿だったと証言して笑う。
厳格なようで保身に必死な校長と、
一人だけ生還した少女へ冷たい目を向け
ヒステリックに非難する生徒達は
規律とコルセットに頑迷に締め上げられ
何処にも行けないアヒルの群れだ。

ミランダの美しさに心奪われ
オルフェウスのよう岩山の穴に
彼女達を探し求めるマイクルは
水面を漂う白鳥に彼女の幻影を見る。
この鳥達が何処から来て
何処へ行くのか、
ミランダはもう知っていたのだろう。
微睡む彼女の側にいた蜥蜴は
神話に登場する案内者だったのかもしれない。
午後のピクニックはいつしか時計の針が止まり
現世から切り離された、瞬間の神話の図となる。

すぐ側に愛する肉親がいたことに気付かないまま
飛べない鳥として壁に縛られ取り残され、
やがて屋上から墜落する不幸なセーラは
現世にもやもやと留まり続ける
私達の分身かも分からない。

夢から醒めると現世の味気なさにがっかりし
飛ぶ夢をしばらく見なくなるけれど
あの娘が一瞬振り返った横顔を思い出しては、
あの娘が口にした謎めいた呟きを思い出しては、
ここではない何処かをまた夢見てしまうのだ。

人生は短く、世界は狭いから
もうこの寄宿舎も終わりを迎えるよ。
冴えない人生の私も
ヒステリックなみんなも
嫌なあの先生すらも
エウリュディケーのように
イザナミのように
岩山の向こうへと消えた美しいあなたに
鳥達の行方を知っていたあなたに
本当はついていきたかったんだよ。
ここではない何処かを知ってしまった、
あなたの物語にわずかでも
触れてみたかったんだよ。
LATESHOW

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