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ノートルダムの傴僂男のみおこしのレビュー・感想・評価

ノートルダムの傴僂男(1939年製作の映画)
3.5
ヴィクトル・ユーゴー原作の不朽の名作の映画化。ディズニーの『ノートルダムの鐘』しか映像化作品は観たことがなく、あの作品でもかなりシビアな内容だったのですが、原作に忠実なこちらはさらに重かったです…。アニメーションでは最後まで普通に登場していたキャラクターが突然死んでしまったりと、あちらのほうがむしろかなり脚色されていたことが良く分かりました。

ルイ11世の治世下のパリで、判事のフロローにより拾われ、ノートルダム寺院で鐘楼守カジモド。生まれつき障害を抱えている彼は、その容姿の醜さからひっそりと暮らしていたが、ある日街にやってきた美しいジプシーの娘エスメラルダをさらうようにフロロ―から指示され、その罪を償うことになり…。

フロロ―のエスメラルダへのゆがんだ愛情、分かるようで1ミリも分からない…(笑)。実らぬ恋はここまで人の嫉妬心を掻き立てるものかとただただ圧倒されるばかりでした。聖職者/判事という当時の絶対的権力者としての身でありながら煩悩に左右されるというこの人間らしさがまた印象的。
そこに巻き込まれ、その見た目によって犯罪者扱いされてしまうカジモドは実は誰よりも美しい心を持っていて、その純粋な人柄を同じく差別と闘いながらも自らの意志を貫いている心の清いエスメラルダも見抜きます。今となってはありふれたテーマかもしれませんが、人々が偏見を持つことに警鐘を鳴らしている点は、約200年前に書かれた本作が時を経ても名作たる所以なのかと。

1939年の映画ながら、カジモド役のチャールズ・ロートンの特殊メイクは今見てもものすごいクオリティ。ほとんど素の顔も見えないしセリフも少ないですが、さすがイギリスが誇る名優ロートンの渾身の熱演というのもあり、ちょっとした眼差しや一言が心に刺さります。特にラストシーンのあの何とも言えない佇まい、ただただ切なかったです…。
あまりの気品漂う美しさがジプシーにはちょっと見えないけれど(笑)聡明なエスメラルダ役がぴったりのモーリーン・オハラ、乞食王クロパン役のトーマス・ミッチェル、運目に翻弄される詩人グランゴワールに扮した後のオスカー俳優エドモンド・オブライエンほか、一流キャストが一堂に会し、さらにはパリの群衆として登場するエキストラの数の多さも他に類を見ないクラス。第二次世界大戦前夜のハリウッド映画の、すさまじいスケールと資金力に圧倒されるばかりでした。きっとスタジオで撮影しているんだろうけれど、どう見てもパリでロケしたようにしか見えないし、CGのない時代と考えると改めてすごい映画だなと…。

それにしてもこの年のトーマス・ミッチェルは、『駅馬車』に『風と共に去りぬ』、さらには本作と超大作への出演が立て続いていてさぞお忙しかったことでしょうね…。
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