逃げるし恥だし役立たず

戦争と平和の逃げるし恥だし役立たずのレビュー・感想・評価

戦争と平和(1956年製作の映画)
3.5
19世紀の帝政ロシアの末期、ナポレオンの率いる強力なフランス軍によるロシア侵攻の中で、貴族の私生児で跡継ぎのピエール(ヘンリー・フォンダ)や貴族の子息で帝国将校のアンドレイ(メル・ファーラー)、伯爵令嬢のナターシャ(オードリー・ヘップバーン)の三者の交流を描く、露の文豪レオ・トルストイの不朽の名作「戦争と平和」の映画化。
色彩鮮やかで絢爛豪華なセットや衣装、戦場での迫力ある俯瞰のシーンは見事だが、余りの大作の映画化が故に登場人物の感情・性格描写が希薄になり客観性も失われて総花的になってしまった印象。唐突に恋が始まり激情に変わり、急速に冷めると唐突に新しい恋が始まると云う、恋のジェットコースターにトルストイも観客も呆気にとられる事は必須、戦争はなぜ起きるのか?人生をどう生きるべきか?という三千ページ超の長編作品の中の幾つもの問いかけに、煮え切らないピエールと影が薄すぎるアンドレイを片隅に追いやり、天真爛漫なオードリー・ヘップバーンが自由奔放な恋愛で答える微妙なストーリーに完結。まあ、原作が壮大すぎて映画に押し込めるのは無理があり、其れでも無難に作られたダイジェスト版というより入門編と云った処だろう。一度目は本作でハリウッドの大作として、二度目は本家ロシアで超大作として映画化されているが、此の二作を超えるスケールを映画化するのは恐らく無理であるために今更彼是と言うのは不毛である。
オードリー・ヘップバーンが出てなかったら歴史の荒波に飲み込まれるレベルの作品で、逆に言えばオードリー・ヘップバーンの魅力が十二分に詰まった作品と云える。