櫻イミト

勇気ある追跡の櫻イミトのレビュー・感想・評価

勇気ある追跡(1969年製作の映画)
4.0
ジョン・ウエインが62歳にして生涯唯一のアカデミー主演男優賞を受賞した痛快西部劇。監督は「死の接吻」(1947)などの大御所ヘンリー・ハサウェイ。共演は「いちご白書」(1970)のキム・ダービー。音楽は「荒野の七人」(1960)のエルマー・バーンスタイン。原題は「True Grit(真の勇気)」。

父を殺された14歳の娘マティ(キム・ダービー当時21歳)はアイパッチの凄腕保安官コグバーン(ジョン・ウエイン)を雇い仇討ちを計画。そこに若いテキサス警備隊ビーフ(G・キャンベル)も加わり、逃亡した仇一味を追う旅に出る。。。

本作が出世作となったキム・ダービー目当てで鑑賞。「荒野の七人」と同調の劇伴に胸躍るエンターテイメント性の高い西部劇だった。

基本プロットは男女三人のロードムービー。気が強く潔癖な少女と大酒飲みでマッチョな老保安官が、ぶつかり合いながらの旅を通して信頼を深めていく。有り金すべてを酒に使ってしまい家族にも逃げられた老保安官が、少女の主張を受け入れる懐の深さと無敵の強さを発揮する。その豪放なキャラクターはジョン・ウエインにしか表せない説得力があった。一方のキム・ダービーは未熟で生意気だが真っ直ぐな心を持つ少女を熱演し、従来の西部劇にはない現代的な色味をもたらしている。

両者の構図は古きマッチョイズム西部劇とアメリカン・ニューシネマの衝突と融合とも捉えられ、その意味で本作は新・旧ハリウッド映画の結節点とも言える。フォード監督の下でうっとりと愛国主義者を演じ続けたジョン・ウエインは、反戦時代のヒロインとなるキム・ダービーと対することで自己客体化し、強さと愛嬌を併せ持つ新たなアメリカの親父像を創生する。

少女の老保安官に対する視線はそのままジョン・ウエインへの同時代批評を孕んでいる。不信から信頼へと至る少女の気持ちの変化は、自他ともに認めるタカ派ぶりから人気急落していたウエインへの再評価をうながしアカデミー主演男優賞へと繋がった。ラストのスチルカットは監督の強い想いが伝わるもので、表層批評の詭弁によるミラクル擁護など無用な一目瞭然の輝きを放っていた。

一点わからなったのが、撃ち殺した仇一味の少年の死体に注目したシーン。何かの布石かと思って観ていたが回収はされず。この旅では主演少女も死を免れないという意味合いだったのだろうか。

※悪役としてロバート・デュバル、デニス・ホッパーが出演
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