サン

ゴーストワールドのサンのレビュー・感想・評価

ゴーストワールド(2001年製作の映画)
4.0
この映画についての低体温系青春映画という文句が好きだ!周りの陽気さに合わせて背伸びをしない青春。青春といえば恋愛だ学校行事だなどイメージするがこの映画は違って陰湿な意地悪なことばかりしているように見える。けれどユーモアがあって「青春ってこんなのもありなんだ」と思う映画。
2001年の映画がリバイバルされている。高校の卒業式が終わるとすぐに帽子を脱ぎ捨てて校舎に向かって中指を突き立てる。
ファッショナブルなイーニード(サン・バース)とレベッカ(スカーレット・ヨハンソン)がこの人は絶対サタニスト(悪魔崇拝者)だとか言って尾行したり。気に入らない友人の動きの癖を2人でおもしろおかしくマネして笑い合ったり(このシーンすごく良い)、新聞広告の好きな人探しを冷やかしで電話してみたり。バイトにちょっかいをかけに行ったり。そういうの当人は迷惑かもしれないけれど好きだ。
イーニードのファッションはころころ変わる。それが自分がわからなくてもがいている彼女をよく表している。
あとレベッカの低音のハスキーボイスでクールな感じががいい。「世界中の男は私よりあんたを選ぶ」とイーニードは言う。2人とも魅力的だけどレベッカそうとう強いよね
またイーニードはシーモアに向けて言う。「あなたがモテない世の中が不安なのよ」はぐれ者の2人がお互いこう思えたらなんて素敵なんだろうと思う。
彼・彼女達を見ていると、映画『怪物』で校長先生が言う「幸せなんてしょーもない、みんなが得られるものを幸せって呼ぶんだよ」という言葉を思い出す
後半イーニードが周りを振り回していくのは見ていてつらかった。親の勧めで仕事をするのも、奨学金をもらうのも、友人と同居するのも、気になっていた人と同居するのも、どれも違う。どこにも行きたくない気持ち。
そしてラストシーン。この余韻のある終わり方が大好きだ。

SENLIS FILMが発刊してるパンフレットが60ページほどもあってとてもおもしろい
かわいい写真や絵が沢山載っているし、原作者や監督・演者の考えが読める。印象に残ったのはゴーストワールドという題名の解釈だ。原作者のクロウズがシカゴの危険な地域を歩いていて目にしたギャングの落書きからきているらしい。シーモア役のスティーブ・ブシェミは「『ゴーストワールド』というタイトルはキャラクターたちが住んでいる世界を示していると思う。アメリカのどこの街でもいい。ショッピングモールとカフェにゆっくり変わりつつある街だ。街の個性は失われ、かつて存在した街のゴースト化している」と語っている。クロウズは「彼女(おそらくイーニード)は画一的な街で本物らしい何かをみつけてつながりたいと願っている」と言っている。
そして、このパンフレットはコメントやエッセイがすごく良かった。20年ぶりに見返してどう感じるかということを自分の過去と結びつけて書いている人が多くて、はぐれ者の自分を救うヒーローのような映画だという人もいれば、身に覚えのある痛みや疼きを自覚する毒薬のような映画だという人もいる。感じ方の振り幅が見る人によって変わることがとてもおもしろい。絶対に終電を逃さない女さんのエッセイは特におもしろかったのでぜひ見て欲しい。
また最近映画レディバードやブックスマートを見た。中沢俊介さんのコラムで書かれている「大人への成長を前にしたはみ出し者の女子(と、その相棒)の悪戦苦闘という構図に『ゴーストワールド』からの流れを感じずにいられない」というコメントを見て、この構図はアメリカではメジャーなものの1つになっているんだろうという実感がある。
能町みねこさんのコメントの「自分が一番若いときに見ろ!つまり今見ろ!」という言葉にはとても共感する。
高校生までのもっと早いうちに見たかったな!
サン

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