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サラの鍵のmiporingoのレビュー・感想・評価

サラの鍵(2010年製作の映画)
4.5
この事件には名前があって、wikiにも載っていた。「ヴェロドローム・ディヴェール大量検挙事件」。ヴェロドローム・ディヴェールというのは「冬季自転車競技場」という意味で、事件は略して「ヴェルディヴ事件」と呼ばれるみたい。第二次世界大戦中、ナチス占領下のフランスで、フランス警察による1万3000人のユダヤ人が拘束され、パリの自転車競技場に強制仮収容されたが、そのうち4000人が子どもだったということも衝撃。詳しくはwikiを。
この映画はタチアナ・ド・ロスネ原作で新潮クレストブックで日本語に翻訳もされている。映画内でシラクがテレビでこの事件を反省する弁を述べているシーンも出てくるが、調べてみると極右のルペンはこの事件に関して「フランスは悪くない」と述べているそうで、現在でも国内の立場を二分する出来事であったことがうかがえる。
このシリアスな事件を扱ってはいるが、映画自体はわかりやすく、とてもよく出来ている。現代でアメリカ人の女性ジャーナリストがこの事件と事件に関わったサラという少女に興味を持ち調査する経緯と、サラが家族と共に検挙されてからの1942年の出来事とが交互に描かれる。わたしが感動したのは、クリスティン・スコット・トーマス演じるジャーナリストのジュリアが、会ったこともないサラのことを調べるうちに内的に変化していくところや、サラの息子と出会い、彼もまた母について真実を知り、何も知らなかったことを悔いてジュリアと和解していくというところだ。過去を知ること、歴史を学ぶことは、現代を生きるわたしたちの目を開かせ、生き方を変えさせてくれることだという大切なメッセージが込められている気がした。とくにジュリアの決断は、その美しさと強さが同じ女性として眩しすぎた。欧米では日本と違って母子家庭に対する偏見が少ないし、行政の保護も手厚いとは聞くけれど、こうやってさらりと一人で母親になれるのは羨ましい。サラの息子ウィリアムとの最後のやりとりから、その後の二人の関係を暗示するように感じたんだけど(わたしだけ?)、そこはさすがのフランス映画っぽさ。ダメ男の描き方も情けなくてよい。
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