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キング・コングのhasseのレビュー・感想・評価

キング・コング(1933年製作の映画)
4.1
演出5
演技3
脚本3
撮影4
音楽5
技術5
好み4
インスピレーション4

キングコングが登場するまでのストーリーは退屈極まりないが、そこからは映画史に残る名シーンの連発。1933年当時最先端のストップモーションは、今見ると古さはあるが、かえって独特の怪物的な奇怪さがにじみ出てており、この当時の技術、この作品内でしか表現し得ない神秘性を感じさせる。

キングコングと恐竜たちが繰り広げる取っ組み合いはメチャクチャ面白い。
キングコングがティラノサウルス的な怪物を背負い投げしたり、右アッパーしたり(ボクッという鈍い打撃音もツボ)したあと最後は上顎と下顎をホールドしつつ頭蓋骨を粉砕して勝利するという、泥臭いバトルを延々見せつけられるのは、新鮮な映画体験だった。キングコングが1ミリもビームとか出さないのがいいね。

と同時に、そのシークエンスはキングコング登場から約15分間はセリフが一切なく、劇伴をバックに、怪物たちの咆哮と人間たちの悲鳴だけがけたたましく鳴り響く異常な時空間でもある。前半のストーリーの眠たい会話劇を一瞬で粉砕する異常なまでの迫力。それまでの会話劇はこのシークエンスを盛り上げるためのフリにすぎなかったのではと勘ぐってしまう。

この映画の一番の輝きは、映画(フィクション)と現実(リアリティ)の境界をキングコングという存在が突き破ってくるスリルにある。映画を撮るためにクルーは島に向かうが、恐怖の演技をしていた女優の叫び声は、キングコングの登場でリアルなものとなる。キングコングを映画のモチーフにしようとしていた監督はキングコングを捕らえて見世物にする。キングコングは束縛を脱して街中を暴れまわることで、フィクションで表現したかった恐怖が現実のものとなる。
同じように、これまではマンガ等の静止画や空想の領域でしか存在しなかった怪物の表象は、この映画で立体化しモーションを与えられることで、観客にとってよりリアルなものとなった。

散々迷惑かけた監督が「怪物を殺したのは機関銃?いいや…美女が怪物を殺したんですよ」とラストを得意気に締めたのは盛大にツッコまざるを得ないが、思いがけずとても良い作品を観られた。
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