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走れ走れ!救急車!のnetfilmsのレビュー・感想・評価

走れ走れ!救急車!(1976年製作の映画)
3.8
 急病人を病院に運ぶ民間の救急会社で働く人々が、さまざまな人々の命を救う様子をユーモラスに描いた70年代の忘れえぬ1本。セコい社長にアレン・ガーフィールド。オフクロと呼ばれる黒人のドライバーにビル・コスビー。レズビアンと疑われるセクシーな通信係にラクエル・ウェルチ。麻薬が原因で刑事を停職になった男ハーヴェイ・カイテルら極めつけのキャラクター達がドタバタを繰り広げる。意外性のある配役とかあっと驚くような脚本もなく、予想通りの展開で物語が進む。その予定調和が実に心地良い。プロレス会場、大学、ゴルフ場、スーパー・マーケット病人を運ぶことは普通シリアスにならざるを得ないが、それぞれの場所に個性豊かなキャラクターがいて飽きさせない。特にふくよかな黒人女性を下まで運ぼうとするシーンは腹を抱えて笑ってしまう。そういう個別の挿話の面白さに加えて、中盤イエーツらしいカーチェイス・シーンもある。まるで『ブリット』さながらの緊迫感を持ったパトカーとの追走劇はまさにウェルメイドな魅力に溢れている。

 コミカルな物語の中にも、途中救急車内での出産シーンもあり、人の命を救うこと、命の大切さに気付かされる。失意のラクエル・ウェルチに対して、ビル・コスビーが語りかける言葉の意味はあまりにも重い。散々笑わせておいて、時にシリアスに考えさせるのも、職業監督イエーツの本領発揮と言えるのかもしれない。けれどそれも一瞬の出来事で、最後のろう城〜銃撃戦のシーンではそんな馬鹿なという銃撃戦が繰り広げられる。ここでも権力を持った者の無知な暴力が、一般市民に向けられる。アメリカン・ニュー・シネマの残り香を感じるような、実にあっけない幕切れである。しかし70年代のハーヴェイ・カイテルのセンセーショナルな労働者階級のヒーローぶりは特筆に値する。スコセッシと組んだ『ミーン・ストリート』『アリスの恋』。アルトマンと組んだ『ビッグ・アメリカン』と決して数は多くないが、デニーロ、パチーノに負けずとも劣らないワーキング・クラス・ヒーローぶりが素晴らしい。
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