NM

スワロウテイルのNMのレビュー・感想・評価

スワロウテイル(1996年製作の映画)
3.3
「むかしむかし 円が世界で一番強かった頃」という出だしがかなり切ない。

はじめは全体に紗がかかったような淡くぼやけた映像で、
ここが日本なのかどこか分からない、雑然としつつも美しい、ファンタジックな世界観。
懐かしいようでもあり、見たこともない。
過去のようで未来のようでもある。

この街で一攫千金を夢見て、食うか食われるかの日々を送る移民たち。
実際はみんな、食うにも苦労する日々。
だが誰もがどこか楽観的で、裏切ったり裏切られたりすることもあまり根に持たない人々に思える。

いつの間にか映像は鮮明になり、謎の少女・アゲハの人生が始まってゆく。
まだ自分というものが何もないアゲハは無表情で無感情。
それが徐々に、自分から行動するようになり、笑ったり起こったり、声にも迫力が出て、自我を持ったたくましい女性へ育っていく。
彼女が胸に抱いた蝶は、自分自身を確立した象徴に思えた。

はじめはアゲハを売ろうとしたり買おうとしたりした人々だが、最終的には自分を犠牲にしてでもお互いを守る仲間へと結束していく。
危険をともに潜り抜け、成功を掴んだりするうち、繋がりが強くなっていったということだろうか。

みんな何者なのか分からないような人たちだが、信頼し合い、時に距離を置く様子は、まるで家族かそれ以上のよう。
特に少年たちが遊んでいるのを見ると、そもそも人間関係に出自は関係ないはずだと感じさせる。
我々は大人になるにつれ、まず相手のステータスを気にするようになってしまう。

最後には兄妹が再開するのかと思いきやそうはしないのが、物語に奥行きが出て良かった。

夢を掴みたくてやってきた人たちだから、地道に生きろというのも無謀な話。
そもそも円盗呼ばわりされ、古今通じる移民の冷遇と悲哀も作品の軸。

最後にグリコたちが編む花輪はユキヤナギだと思う。
開花時期は3月頃らしい。
NM

NM