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女の歴史のnt708のネタバレレビュー・内容・結末

女の歴史(1963年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

成瀬映画の割には物語の展開や演出に多少の強引さは感じたものの、『娘・妻・母』にも共通する女性の女性としての一生を豊かに描いているように感じた。特に、戦前~戦後にかけての時代、女性がひとりの人間として生きることがいかに難しかったか、、それが連想されるだけに成瀬が描く女性は実に活き活きとしており、いわゆる内助の功のような脇役としてではなく、女性もまた人生の主人公であることを痛烈に感じさせる。

男の浪漫を描く映画が数多く作られた時代において、このような視点を持った映画監督がいたことが嬉しい。とはいえ、決して女性という立場に肩入れするわけでもなく、そっと寄り添うような姿勢がまた尊敬に値する。これが何より私が成瀬を敬愛する一番の理由かもしれない。

もちろん演出も素晴らしい。相変わらず奇をてらったことは何一つとしてしないのだが、あるショットによって生まれる疑問に次のショットで答えるという映像の基本に忠実であり、そこに成瀬の生真面目さを感じずにはいられないのだ。こういう基本的な技法で観客の心を動かすことのほうが案外難しいものである。まあとにかく、私の成瀬好きも相まって、本作の悪いところには目をつぶってしまうのだが、たまにはそれも良しとしよう。
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