せみ多論

チャンプのせみ多論のレビュー・感想・評価

チャンプ(1979年製作の映画)
2.8
あまり好きな映画ではない。

理由はいくつか。
T.Jがあまりにもよくできた子供過ぎて、健気で魅力があるのは間違いない。父親をチャンプと呼び、信じ、慕う。父もまた同様に息子を愛する。この二人の関係はとても素晴らしいし、泣けるようなシーンも多いと思う。
これに反して、死んだことになってたT.Jの母アニーはどうなんですか。生後間もない子供、旦那とも離別し、七年たって突然再会。それでやれ愛してるだの、別れたのは仕方がないだの、あなたのところには戻れないだの、過去の話はやめましょうだの。不快極まりない。自らの過去の選択に責任もなく、ムシのいい話。
詰まる所自分が一番大好きアニーちゃんの存在が、この映画を好きになれない一番の理由。

ボクシング映画ではあるけれども恐らくボクシングをするのは最後の30分ほど。ここの流れも正直興ざめだった。
七年のブランクを空けたボクサーがいきなりの復帰戦で世界戦。尚且つ勝利して、試合のダメージで亡くなる。このシーンでのT.Jの演技は見応えはあるとは思います。
でも展開があんまりではないか。
そりゃ悲しいさ。あれだけ健気な子が最愛の父を目の前で失って、チャンプを起こしてとまわりにせがむんだから、そりゃ胸も痛むけども。なんだか釈然としない。
チャンプは自らの死によってT.Jに何を伝え、残せたのだろうか。チャンプとしての死に様だったのか、己の生きる道だったのか、それはT.Jと生きていく未来よりも大切なものだったのだろうか。正直納得できる答えはない。
ヒューマンドラマで人が死ぬなら、そこには納得できる理由や、監督や原作者のメッセージをくみ取りたいし、そこが大切だと思う。ただ単に愛する人がなくなって悲しいでしょ、みたいなやり方は悪趣味だし大嫌いだ。

この映画はチャンプがボクシングを始めるまでが長い。全体の七割くらいまでボクシングはしない(喧嘩はします)。つまり彼が再起を胸に誓うまでが、メイン。そこが少し長すぎる気がする。チャンプが世界戦までカムバックする過程を数試合でも描いてくれていたら、また違った印象だった気もする。

ボクサーの父と子供の豊かではない二人暮らし、一方で溝のある母親側は資産がある。これは小山ゆう先生の名作「がんばれ元気」と似ている。小山先生が影響を受けてるのかな。「がんばれ元気」は1976年の漫画ですが、「チャンプ」自体が1931年の作品のリメイクのようですから。あたくしは1931年版は未見なので内容はわかりませんが。

そう。この大好きな「がんばれ元気」の存在も、この映画に対して、物足りなさや、展開の無茶さを感じさせる要因だったのかもしれない。長編漫画である分映画と比べてどうしても話の厚みが違ってしまうのが仕方ないのはわかってはいるのですが・・・重なるものも多いので…残念。

期待もしていたのでその分の落胆も大きかったのかもしれない。
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