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霧の中の風景のbennoのレビュー・感想・評価

霧の中の風景(1988年製作の映画)
4.7
テオ・アンゲロプロス監督作品…2作品目…。


ギリシャのアテネに住む12歳のヴーラと5歳のアレクサンドロスの姉弟…。

「父親はドイツにいる」と母親から聞かされ…顔も知らない父親に一目逢いたいと、ある寒空の日、姉弟はお金を持たずに列車に飛び乗ります…

そしてヴーラは未だ見ぬ父へ宛のない手紙を認めます…

遠い旅路です…
夢の中では近いのに…と弟は言います…
手を伸ばせば届くくらいだと…。


資本主義の波に翻弄される当時のギリシャの世情を背景に様々なメタファーもあり…現実と非現実の狭間のような旅路を辿る姉弟のロードムービー…。


しかし物語に早い段階で裏切られます…彼らの目的に答えが出てしまうのです…。

海から曳き揚げられた行く先を指し示す人差し指を失った巨大なレーニンの手のように…彼らの行く先は…??


  〜〜〜⚠︎以下ネタバレ含みます⚠︎〜〜〜











およそギリシャとは思えない曇天の空…グレートーンの水彩画のように静謐で幻想的…日常の中に突如差し込まれる夢幻の場面も絵画的…

降ってくる雪を見上げたまま静止する人々…止まった時間の中、縫うように駆け抜ける姉弟…

酔って浮かれる結婚式の参列者たち…同じ画面に映り込むトラクターに引き摺られ息絶えそうな馬…

旅芸人の青年オレステスから貰った写真のフィルム…でもそこには見えるはずのものが写っていない…。

そして長回しに定評のあるアンゲロプロス…人物のロングショットに道路や駅のホームを活かした奥行きのある構図…時に過酷なシーンではそっと寄り添うカメラが優しい…。

言葉は勿論、映像も雄弁に語る詩の世界…エレニ・カラインドルーのオーボエとチェロの音楽が哀感を唆って絶品です…。

また、ヴーラの成長譚でもあり、辛い体験や初恋…そして別れ…姉として気丈に振る舞っていた彼女が思わず大泣きしたシーンに私も( ᵒ̴̷͈‪ᯅᵒ̴̶̷͈)ンエ…ს


ラストは銃声と…無情の白い画面…

霧の中に現れたのは…写真のフィルムの中に写っているはずのもの…あまりにも神々しくて…胸が苦しい…。

まるで父親の声が聞こえてきそう…

「私だよ…お前たちを待っていたよ…」



解釈は分かれるところですが…観ている側に委ねられます…。
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