マヒロ

霧の中の風景のマヒロのレビュー・感想・評価

霧の中の風景(1988年製作の映画)
5.0
顔も知らない父親に会うため、ギリシャからドイツまでたった2人で旅に出る姉弟のお話。

何も知らない幼い子供が、お金も持たずに飛び出したらそれはもちろん上手くいかないわけで、2人はあらゆる困難に直面することになる。恐ろしいのが大人たちの無関心ぶりで、途中で出会う旅芸人の一座以外は、子供達にとことん冷たい態度をとる。
頼ってきた姪と甥を邪険にする伯父や、親切なふりして最低なトラック親父も酷いが、警察署に保護された2人を他所に、警官たちが「雪が降ってきたぞ!」とか言いながら無邪気に飛び出していくシーンは、その後の時が止まったような描写が美しくもありつつ、すぐ側の子供に気が付きもせずにいる大人たちの様子がひたすら不気味でもある。
無力さを象徴するかのように現れる巨大なオブジェクトも印象深くて、大規模な工場、馬鹿でかい掘削機(?)、海に落ちた石像の右手など、圧倒的なビジュアルとその前に立ち尽くすしかない子供たちの図が恐ろしかった。

地理にはとんと疎い自分でもあれ、と思うくらいにはギリシャとドイツは離れすぎているけど、その現実味の無い距離感がまた無謀な旅であることを強調する。そもそも探している父がどんな人なのか、というか存在しているのかすら全く分からないし。『こうのとり、たちずさんで』でも国境は一つの大きなテーマになっていたけど、監督にとって国境は大きな断絶のようなイメージなのかなと思った。

そんな絶望的な流れの中でも、心の拠り所となる旅芸人の青年との交流シーンは心温まるし、反対に寒々しいシーンの雰囲気づくりは抜群に上手くて、随所に挟まれる詩的なビジュアルはインパクト大と、常に心揺さぶられ続ける一作だった。

(2019.36)
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