シズヲ

アメリのシズヲのレビュー・感想・評価

アメリ(2001年製作の映画)
3.7
フランスを席巻した無邪気でキュートな大人こども“アメリ”の愛ある奇妙な日常。言うほどアート性が高い訳でもなく、ヘンテコとおしゃれの間を反復横跳びしてる感じの御伽噺めいた娯楽作。B級中心の配給会社アルバトロスが本作をうっかりゲテモノ映画と勘違いして日本国内の配給権を手に入れた結果普通に大ヒットしてしまった話、妙に好き。

何はともあれオドレイ・トトゥの存在感が本作の肝で、特徴的なフレンチボブと無垢な表情の数々がとてもキュート。彼女の可愛らしさと共に映像の色彩も際立っていて、鮮やか赤を基調とした内装(窓越しに見えるキッチンの色合いが好き)や琥珀色めいた画面効果などのカラーリングが印象的。どことなく哀愁漂う優美な音楽も雰囲気に溢れている。ブラックユーモア的な内容も含めてちょっとあざとく気取ってる感はあるけど、まあ愛嬌の範疇。

良くも悪くも無垢なまま育ってしまったアメリは自分の世界に没入し、他者とは根本的に断絶している。同じように他の登場人物もまたディスコミュニケーションの中で生きていて、アメリは世界と繋がる手段をそこに見出す。他者の幸福のために奔走する無邪気なアメリを軸に、お洒落な画面と奇妙な閉鎖性がコントラストのように映る。しかし白々しく毒のあるナレーションが本作をシュールに落とし込んでいるので、映像も相まって奇妙な雰囲気を生んでいる。「よそ見運転をするアメリカ映画が嫌い」「包装袋の粒を潰すことが唯一の趣味」だの登場人物の変な情報を語ってくれるナレーションにフフってなる。それにしても散々こらしめられる八百屋のパワハラ親父よりも録音のおっさんのがなんか陰湿で怖い。

ヘンテコさとキュートさ、お洒落な色彩感覚など、作風のムードだけでも印象に残る本作。その上でこの映画の根幹にあるものは一種の孤独感だと思うし、自己と他者(=外の世界)の繋がりについてアメリが考え続ける話だと思う。それ故に本作はハイカラなのに何処となく哀愁や寂寞感のようなものが漂っている。“証明写真の男”に対する推察とその正体の落差は笑いどころでもあるけど、言うなればフィルター越しに見る他者への解釈の話なのだと思う。子供のように回りくどい手段でニノと繋がろうとしたアメリが最後に真正面からコミュニケーションを取ることを選ぶの、やはり愛おしい。
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