hasse

アメリのhasseのレビュー・感想・評価

アメリ(2001年製作の映画)
4.1
演出5
演技4
脚本4
撮影3
音楽4
照明5
インプレッション4

この映画を「感性」で観て楽しめるのであれば、それに越したことはない。主人公アメリの純真さ、突拍子もなさ、時に垣間見せる冷酷さ。オシャレなアコーディオンの音楽や趣味のよい小道具が演出するアーティスティックな雰囲気。エスプリのきいたナレーション。

だが、この映画が持つそれらの個性は万人受けするとは言い難い。アメリを身勝手でお節介で、ややイカれた女の子だと受け取る人もいるだろうし、こなれた小粋な演出が鼻につくという人もいるかもしれない。

そうであれば「理性」で観るのはどうだろう。

『アメリ』は、主人公アメリが幼少時代に喪失した他者との関係性を「贈与」を通して再構築する物語だ。

中沢新一著『純粋な自然の贈与』によれば、
「贈与はものとひとを、ひととひとを結び合わせるエロスの力をもっている。贈与は世界のうちに流れを、魂の流動するリングを形成する」

アメリはある偶然をきっかけに、初老の男性に少年時代の宝物を届ける。泣いて喜ぶ男性を見て、アメリの心に、贈与による他者への愛が宿る。
その後もアメリはささやかな人助けを繰り返していく。しかしそれはあくまで与えるだけの一方通行の関係であって、中沢氏のいう「魂の流動するリング」を形成するには至らない。

両通行の人間関係は、絵描きの老人との間に徐々に出来上がっていく。アメリは老人にビデオを「与え」ながら、そのビデオを見た老人によって、アメリの恋路に対するエールを「与えられ」よう、引き出そうとする。彼女のやり方はぎこちなく、迂遠的だが、老人との間に紛れもない魂の交流を生み出す。二人は窓から互いのを家のなかをしばしば窃視するが、その交流が前提にあるからこそ、不気味より心暖かさの印象が勝る。

そしてアメリは、意中の人ニノとのすれ違いの贈与の「攻防戦」を繰り広げたのち、自宅でニノとキスをするにいたる。
あのキスシーンは普通に観ればキス回数多い過剰演出なのだが、これまで奥手で風変わりな方法で人間関係を切り結ぼうとしてきたアメリの(そしてニノの)「贈与」の蓄積が日の目を見た瞬間であり、二人が初めて一方通行ではなく両通行で「与え合う」ことに成功した瞬間と考えれば感慨深いものがある。

また、この映画の人物の眼差しは温かい。見る/見られる視線の関係はともすれば暴力の構造へといざなわれるが、この映画の人物が特定の誰かを眼差すとき、そこにはその誰かへの思いの贈与の重力がはたらいている。
アメリはしばしば、映画の向こう側の我々をも眼差す。映画のタブー表現などいざ知らず、彼女は我々にも何かの思いを乗せた眼差しを向けてくる。
映画の二時間、あるいは映画が終わった後の長い時間のなかで、アメリが物語と感動を我々に「与え」、我々がアメリに解釈を「与え」たならば、双方の間にはきっと何かしらの関係性が芽生えているはずだ。
hasse

hasse